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『剣遊記番外編T』

第三章 魔術師と姉妹、三人の旅立ち。

     (11)

「ほな村長はん、うちはこれにて次の旅に出たい思いますさかい、くれぐれも山賊たちをひとりも逃がさへんで、必ず衛兵隊に引き渡してもらいますようにな☢」

 

 美奈子は村長に、はっきりと釘を刺しておいた。鱏毒たちは今度こそ、ひとり残らず厳重に紐で縛り、村の養豚場に閉じ込めていた。その養豚場に美奈子は、全体を魔術で封印を行ない、中からは絶対に出られないようにしてあった。それも誰かのように中途半端な魔術とは違って、本格的な封印の術である。

 

 よけいな駄洒落ではあるが、言葉どおりに本物のブタ箱。

 

 なお、山賊一味には約一名だけ行方不明者(中途半端な誰かさん)がいるのだが、面倒臭いので、そいつの消息は放置されていた。

 

 哀れなやつ。

 

「わかりました! もうきのうの失敗は断じて行ないまへんさけぇ!」

 

 そうは言っても、美奈子に応える村長のセリフは今ひとつ、信用性に欠けていた。たぶん今晩も、山賊壊滅を祝って飲む気でいるのだろう。

 

「それと、もうひとつなんどすが……☞」

 

 もはや酒など不問にして、美奈子は話を変えた。

 

「実は、この娘{こ}たちなんどすけど……☺」

 

 美奈子の左右両側には先ほどからずっと、千秋と千夏の双子姉妹が寄り添っていた。

 

 村長と美奈子の会話が行なわれていた間、千秋はジッと沈黙をして、話の流れを聞いているだけだった。その反対に千夏のほうは、美奈子の体にベタベタと引っ付き、堂々と甘える仕草を続けていた。しかもふたりとも、すでに旅の準備は整えていた。それも背中になにかをいろいろ詰めているらしい、唐草模様の風呂敷包みを背負っている格好。その姿で今は、美奈子と村長の会話終了を、静かに待ち続けているのだ。

 

「おや? この娘たちが、なんでっか?」

 

 双子姉妹の旅姿を見て、村長が美奈子に尋ねた。これに美奈子は、千夏の茶色い髪を右手で優しく撫でながらで答えた。

 

「うちが思いまんのやけど、このかいらしい娘たちにはでっついほど素晴らしい魔術の才能の素質がありまんのや☆ そやさかい本格的に修行すれば、将来きっとドエラい一流の魔術師になれると思いますよって✌ それでもしよろしいんやったら、この娘たちを私に預からせてほしいんやわぁ✈」

 

 少々大袈裟に表現しているが、美奈子は決して嘘を言っているつもりはなかった。実際、千秋も千夏も自分では気づいていないのかもしれないが、ふたりには本当に魔術の素質があると、美奈子は大真面目に考えていた。

 

 確かにこの双子は、不思議な魅力にあふれていた。さらに付け加え、ふたりを弟子にすると約束をした立場上、必ず実行しないといけないのだ。

 

「……そうでんなぁ〜〜⚤」

 

 美奈子の言葉を受けて村長は腕を組み、しばし考え込んだ。それから居並ぶ村の面々に顔を向けた。とりあえず、全員の意見を聞いてみるつもりらしい。

 

「どやねんな、村の衆、この娘たちを魔術師の先生に預けてみるってぇのは?」

 

「ええんでないかい☀」

 

「この娘たちも行きたがっとうようやしなぁ✈」

 

「わいは賛成や☆」

 

 話し合いを行なうまでもなく、皆の衆の意見は一致した。

 

「そう言うことでんな⛵ では美奈子はん、この娘たちをお願いしまんがな✈」

 

 村長の言葉を聞いて、美奈子は自信たっぷりに、自分の胸を右手でポンと叩いてみせた。

 

「任せておくれでやす☆ うちが全責任を持ちまして、この娘{こ}たちを一人前……いえ、日本でも指折りの魔術師に育ててみせますさかい✌」

 

 こうして村人全員の賛同を受けたかたち。美奈子は高々と胸を張り、思う存分に大見得をきってやった。

 

「そんじゃふたりとも、日本一の魔術師になるんやで✋」

 

「任せときいな♡」

 

「はいですうぅぅぅ♡」

 

 村長の激励に、千秋と千夏がそろって大きくうなずいた。それからふたりして元気いっぱい。美奈子にピョンと抱きついた。

 

「千夏ちゃん、とってもうれしいさんですうぅぅぅ♡ これからもぉずっとぉ美奈子ちゃんとぉごいっしょできますですうぅぅぅ

 

「師匠、こない不束{ふつつか}な弟子なんやけど、よろしゅう頼むで

 

「うちかて仰山うれしいんやでぇ♡ でも修行は厳しゅうおまっせ♡

 

「大丈夫や♡ 千秋は絶対泣かへんさかい

 

「はぁぁい♡ 千夏ちゃん、頑張りましゅですうぅぅぅ♡

 

 自分たちの周り、三百六十度すべてから注目されている状態も構わず、三人(美奈子、千秋、千夏)が仲良く抱き合い、この場でクルクルと円を描いて踊り出す。

 

 村人たちの拍手喝采の中、いつまでも、いつまでも。


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