『剣遊記番外編T』 第三章 魔術師と姉妹、三人の旅立ち。 (10) 今度こそ正真正銘、山賊団は壊滅した。
もちろん今回も村を挙げての万歳三唱が、何度も何度も繰り返された。
「美奈子さん、ばんざぁーーい🙌! ばんざぁーーい🙌! ばんざぁーーい🙌!」
これだけ大袈裟に盛り立てられると、日頃冷徹かつ高慢で通している美奈子も、さすがに照れ臭い気になってくる。
「そ、そんな……ドえらいことせんでもええんどすえ……ごっつう恥ずかしゅうてかなわんさかい……☂」
「いやいやいや、恥ずかしいのは吾{あ}がらやさけぇに☀☆」
顔面から炎が噴き出す思いの美奈子とは、てんで対照的。村人の先頭に立つ村長は、喜色満面そのもののニコニコ顔でいた。
「きのうは吾がらが酔って騒ぎよううちに、せっかく捕まえた山賊どもに全員逃げられてもて、おまけにあなたまでがつれもて誘拐されてしもうたんやからねぇ☻」
村長たち村の面々は皆、昨夜から今朝までの間、美奈子と双子姉妹になにが起こっているのかも知らないまま、酒に酔って全員公民館で寝付いていた。
それほどの深酒であった話だが、もしもそんなときに鱏毒一味の襲撃が起こっていたら、それこそとんでもない事態に発展していたところであろう。
だからそのような危機から村を救ってくれた格好である美奈子に、頭が上がらない気持ちも当然だった。だがそれでも見かけが超明るい様子でいる理由は(ハゲた頭のせいではなく)、きのうの酒がまだ残っている証拠だったりして。
(こん人らが山賊をやっつけられへんかった理由が……なんとのうやけどわかってきもうしたわ☢)
口には出さずに、美奈子はつぶやいた。
大方、なにかがあればそれを口実にして、酒を飲むのが大好きな人々である。敵が現われても対策と称して宴会ばかりを行ない、そのためけっきょく、事態の悪化を招いていたのかも。もっとも、きょうで村を立ち去る美奈子には、もはやどうでも良い話ではあるけれど。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |