前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記番外編T』

第二章 逆襲! 山賊団。

     (9)

 そもそも、このような外道な輩から見下される状況自体が、美奈子にとっては耐えがたい恥辱。そんな思いをぐっと堪え、美奈子は気丈に振る舞おうとした。持ち前である高飛車な性格を発揮して。

 

「うちを裸にしたいんやったら、勝手にしはったらええんや! どうせ減るもんやないんやし、けっこう自信もあるさかいにな! そん代わり、いろいろ訊いてもええか!」

 

「ああ、ええで☆ なんでも教えてやるがな☻」

 

 おのれの立場の絶対的優位性を確信しているらしい。山賊どもの態度は、腹立たしいほどに余裕しゃくしゃく。美奈子は自分を見下ろすふたりの男の視線に耐え、逆ににらみ返す思いで質問をぶつけてやった。

 

「ほな訊くで! おまいさんらは魔術が怖いことあらへんのか? きのう、あれほどごっつう痛い目に遭わせたはずやのに♋」

 

「ああ、それやったらなぁ✌」

 

 含み笑いを交えながら、左側の山賊が答えた。

 

「舐木野の兄貴がおめえの魔力を封印してくれたおかげで、おれたちゃ安心して、こうして見張りができるっちゅうわけやねんな✌」

 

「なめきの?」

 

 美奈子はすぐに思い出した。昨夜、自分に術をかけて眠らせてくれた、あの忌まわしい魔術戦士の顔かたちを。

 

 不覚を取ったとは言え、今になって考えても腹立たしかった。おまけに舐木野とやらがかけていた黒いサングラス😎までもが、とにかく美奈子の癪に障りまくってくれた。

 

 俗に言う『坊主憎けりゃ袈裟{けさ}まで憎い』か。

 

(なんや……だんだんムカついてきたわぁ〜〜♨!)

 

 そんな美奈子の胸の内など、わかるはずもないだろう。なおも山賊が言葉を続けた。言い草がまるで、おのれの手柄であるかのように高慢となっている。

 

「そやねんな✋ 舐木野の兄貴はやで、親分はんの弟はんで京都の町で剣技と魔術を両方習って帰ってきたんや✈ 考えてみいや⛸ 世の中にこないぎょーさん強い組み合わせがあるって思いまっか? 思わんやろ☛☻ そやから舐木野の兄貴は、日本で最強の山賊なんやでぇ✌✌」

 

「その舐木野はんとやらは、今なにしてはるんや?」

 

 美奈子の胸の中のグラグラ♨を抑えている問いに、今度は右側が答えた。

 

「兄貴と親分はなぁ、村の連中に仕返しするため、隠しとった武器を集めに行っとるんや☛ おれたちをコケにしくさった村に逆襲して、完全に焼き払ってやるさけぇになぁ☻」

 

「それはあきまへんでぇ!」

 

 美奈子は思わず叫んだ。山賊どもが狙う場所は、当然のごとく美奈子を雇った千秋と千夏の村であるからだ。

 

 せっかく高めの報酬(実は美奈子は値を吊り上げた)を頂戴して、山賊退治に成功しておきながらそんな逆襲をされては、魔術師としての面目が丸潰れになるやおまへんか。

 

「逆襲の暁には、おめえら三人をすっぽんぽんで十字架に張り付けて、村への見せしめにしてやるんやからなぁ☻ 覚悟しときや⛑」

 

「あきまへん! そないなことはさせまへんで!」

 

 このままでは村の平和はともかくとして、美奈子自身の名誉と貞操が、重大な危機に瀕してしまう。そんな事態を恐れる美奈子は、とにかく必死になってもがいた。それでも全身を縛っている紐は、いくら力任せに伸ばしたところで、まったくビクともしなかった――のだが、ほんの小さな音がひとつ。

 

 みりッ――という微かな音を、美奈子の両耳は聞き逃さなかった。

 

「えっ?」

 

 そうとは知らない山賊のふたり。美奈子のあがきっぷりを眺め、腹を抱えての大爆笑をしでかした。

 

「ぎゃははははっ! 見てみいや。いいザマやねぇ!」

 

「いくら暴れたかて無駄っちゅうもんやで⛔ そのヒモは舐木野兄貴の魔術で強化されて、人の力じゃ絶対ちぎれねぇ……」

 

 ことのときになってプツンという音が、洞窟内に反響した。

 

 洞窟内をしばし、静寂が支配をした。

 

 やがて美奈子は、ポツリとひと言。

 

「……あのぉ……ちぎれはったんどすけど……♋」

 

 美奈子は両手で持って、ちぎれた紐をふたりの前に差し出した。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system