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『剣遊記Y』

第一章  黒崎店長、出張す。

     (8)

 一触即発! 今にも酒場で、本物の斬り合いが始まろうかとする寸前だった。

 

「待てぇ♐ 剣を抜くんもおらぶんも、表でやるんが筋じゃろー☞」

 

 酒屋のカウンターの席に酒――ではなく牛乳を飲んでいる、肩から薄汚れた灰色のマントをかけた男がいた。その男がこちらには見向きもせず、迫力に満ちた声音で、孝治たちに声をかけてきた。

 

「うわっち!」

 

 そのなんとも言えない威圧感で、孝治は思わずビビりあがった。なぜなら灰色マントの男は、背中だけで強烈な気迫を発していたからだ。

 

(……こん人……本物のプロフェッショナルばい……♋)

 

 また、孝治と同じで大介も、全身がすでに硬直化しているようだった。ふだん無表情なリザードマンであるが、そんな種族でさえ極度の緊張を強いられている様子が、孝治には一目瞭然となっていた。だけどお馬鹿なチンピラどもには、孝治と大介の感じている気迫が、まるでわかっていなかった。

 

「なんだなんだ、兄さんよぉ!」

 

「おめえなぁ、人のケンカにでしゃばるつもりかい♨」

 

「カッコつけんじゃねえよ!」

 

 このチンピラどもの、さらなる挑発に応えるつもりだろうか。男がカウンターに、二枚の金貨を置いてさりげなく言った。

 

「店主、牛乳代を置いとくで♐ わしもどうやら、表に出らんといけんようじゃ☠ でーれーことになったもんじゃ☁」

 

 これを聞いたチンピラその三が、声を大に笑い出した。

 

「聞いたかよぉ! この兄さん、牛乳飲んでたんだぜぇ☆ きっとまだ乳離れも済んでねえんだぜぇ☀」

 

「ぎゃははははははっ☀☀」

 

 しかし孝治の受けた迫力は、こんな笑えるシロモノではなかった。

 

「うわっち! 渋かぁ〜〜っ♥」

 

 気迫に続いて、今度は背中に電気が走る衝撃まで感じていた。それというのも、男のセリフのひと言ひと言が、あまりにも決まり過ぎているからだ。そのついで、男について、ひとつわかった事実もあった。

 

「この人……山陽地方の訛りばい✍ 前にいっぺん行ったことあるけ✈」


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