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『剣遊記12』

第六章 サングラスが年貢を納める日。

     (7)

「このたびは大変お世話になりました☀ おかげで我が陣原家も、これで安泰にてございます☺」

 

「そうですか。これでも僕も、久留米まで足を伸ばした甲斐があったものでございますがや」

 

 すべての騒動が、これにて解決。問題の終了を見届け、今から北九州市に帰る未来亭一行。その見送りのため、陣原家の正面である門の前に前当主の陣原公爵を始め、現当主の長男貴明氏。双子の弟で、次男の貴道氏。それから侍従長則松を先頭に、陣原家に仕える門兵や給仕たち面々の顔が並んでいた。

 

 これら一同の前で、未来亭店長の黒崎氏は自家用馬車に乗り、同じ博多県の中ではあるが、帰りの途につこうとしていた。

 

 ちなみに馬車を操る御者は、未来亭の給仕長である熊手尚之{くまで なおゆき}氏の仕事。今回まったく目立っていなかったのだが、彼も店長のお伴で、久留米まで同行していたのであった。もっとも存在感はおろか、セリフさえ一行も無し。今後も熊手氏が目立つかもしれない場面は、やっぱり一切有り得ないだろう――と思う。

 

 その件もワンパターンで脇に置く。

 

「そんじゃ貴明さん、お父さんの介護ばしっかりやりながら、陣原家ば無事に運営するっちゃよ✌」

 

 などと、実に偉そうな口振りの孝治である。これに陣原家の長男が、溌剌とした返事で応じてくれた。

 

「はい、もちろんです! もう東天みたいな悪徳魔術師は絶対家には入れましぇんばい! やけんこれからはお役所任せにはせんで、自分たちん目でしっかりと顧問の吟味ばするつもりですったい☀」

 

 東天の電撃魔術攻撃による、後遺症もなし。大事には到らずに幸いであった。

 

「それで、貴明さんがこん家ば継いどうとやけど、弟であられる貴道さんは、これからどげんされるとですか?」

 

 ついでかもしれないが、友美も兄の右に立つ弟に尋ねていた。すぐに貴道が、実に頼もしそうな返答を戻してくれた。

 

「俺はまた、修行のやり直しばい☆ 東天の調査でえろう時間ば取られたばってん、これからは存分に、剣の修行に励めるっちゅうもんばいねぇ✌」

 

 そんな双子の兄弟のうしろでは、侍従長の則松が大袈裟に涙を流しまくりながら、ひとり大感激感無量の真っ最中でいた。

 

「う、うう……わしかて陣原家での御奉公生活二十五年になりますばってん、きょうほど感動した日はありませんばい! これぞまさしく、長生きばした甲斐があったっちゅうもんですたい!」

 

 なんだかこの場にいる者全員が、侍従長の周りから引いていた。


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