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『剣遊記12』

第六章 サングラスが年貢を納める日。

     (6)

 連中が磔となっている一角から、少し離れた裏道の入り口。孝治と友美と涼子の三人は、ここで連中の無様な醜態を眺めていた。だけど、このあまりにも残酷極まる制裁を実行した張本人である孝治としては、これでもまだ連中に、充分な情けをかけているつもりでいた。

 

「あいつらがいっちゃん見せたかった背中ん入れ墨ば、これで思いっきり見せちゃることができたんやけ、でたんそーとー満足っちゃろ☻ あとは色がねえと様にならんとやけ、近所のお子さんにクレヨンで色ば塗ってもらうっちゃね☠」

 

 本心で言えばまだまだ、復讐心が完全には癒されていない孝治でもあった。しかし自分にもけっこう慈悲の気持ち(?)があるもんやねぇ――と、とりあえずは自分自身を納得させていた。

 

 なによりも、全国の馬鹿ヤクザどもに共通している自己顕示の欲望(背中の入れ墨の見せたがり)を、ある意味存分に堪能させてあげているわけだから。

 

『孝治もほんなこつワルっちゃねぇ〜〜☠ 今回よっぽど、あいつらへの恨みが深かったっちゅうわけっちゃね♐』

 

 孝治の右横でヤクザどもの末路を見物している涼子が、半分驚きのような。またもう半分は感心の面持ちで、孝治にポツリとささやいた。さらに左横にいる友美もまた、やはり幽霊と同じような顔になっていた。

 

 もともとウリふたつな顔は、この際ここでも棚に上げよう。

 

「わたしの思い過ぎやったらよかっちゃけどぉ、孝治って年々、性格が過激になってくような気がするっちゃねぇ〜〜☠ これがほんなこつ、思い過ぎやったらよかっちゃなんやけどねぇ☻♋」

 

 そんなふたり(友美と涼子)のある意味杞憂的声を耳に入れた孝治は、特に否定も肯定もなし。あっさりとした気持ちで、ふたりに言葉を返すだけにした。

 

「だいたいなんやけどねぇ、これはおれのひとつの考えなんやけどね☛ 少し話は飛躍するっちゃけど✌」

 

「飛躍するような、ひとつの考えって?」

 

 すぐに友美が尋ね返してきた。孝治は今まで胸の中に詰まっていたなにかを吐き出すような気持ちになって、この場で思いのすべてをブチ撒けてやった。

 

「そうっちゃ、だいたい世間でヤクザなんち自称しちょう連中はそれこそ腐るほどおるっちゃけど、その実態はあげな風に、いっちょもつまらんもんちゃねぇ☠ それなんに世間とかマスコミなんかがあいつらば『暴力団』なんち言うてチヤホヤするもんやけ、やつら完ぺきに頭に乗ってツケ上がっちょるっちゃよ♨ やきーどうせやったら馬鹿の集まりなんやけ、はっきり『馬鹿集団』なんち言うてやればよかっちゃね☻ 『広域馬鹿集団山○組』なんてやね♥♪」

 

『きゃははっ♡ それって良かかもねぇ☆』

 

 すぐに涼子が調子に乗って、孝治を囃し立ててくれた。しかし友美のほうは、やや慎重な考え方をしていた。

 

「孝治のやり方がええかどうかはわからんちゃけど、暴力で自分の無理ば押し通すような人たちって、絶対野放しにしたらいけんもんねぇ☢ みんながみんな、彼らば許さんっちゅうような目でにらみ続けることが必要っち思うっちゃよ✄ やけんきょうんところはこんわたしも、いい気味っちゃね☀」

 

「ありがとっちゃね♡ 大方んところで賛同ばしてくれて♥☆」

 

 なんだか肩の荷が下りたような気になって、孝治は友美に頭を下げた。それからふたりに向き直し、さらに溜まっていたモノを全部出し切るつもりで自分の考えを、友美と涼子相手にまくし続けてやった。

 

「もともとあげな馬鹿ヤクザな連中なんち、こんおれに言わせりゃ俗に言う『男ん中の男』っちゅうもんから、いっちゃんかけ離れた低級な連中なんやけねぇ☠ 本音で言えば、あいつらのチ○○ンば、今すぐチョン切ってやりたかぐらいっちゃけ✄✄」

 

『やっぱ残酷っちゃねぇ、孝治って☠』

 

 我ながら根に持つ性格っちゃねぇ――などと内心で苦笑している孝治の言葉に、涼子がさらに感心と『呆れたっちゃ⚠』が半分半分のような相槌を打ってくれた。

 

 そのついでに涼子は、もうひと言も忘れていなかった。

 

『でもっちゃねぇ、『男ん中の男』っちゅうとやったら、今の孝治自身はいったいどげんなると? 『男ん中の元男で現在女になってます⛑』やなんち、すっごうややこしかっち思わんね?』

 

「もうそげなツッコミ、慣れ……ちょうわけなかろうがぁ! こらぁ、涼子ぉ!」

 

『きゃはっ♡ やっぱごめんなさぁ〜〜いっと☀☆』

 

 けっきょくいつものワンパターン。見えない幽霊――涼子を追い駆け回すひとりの女戦士の姿を見て、周りにいる久留米市民の皆さんがそろって、なにか物珍しい光景を見つめる顔を並べていた。

 

 その中に混じって友美はひとり、大きなため息を吐いていた。

 

「やっぱし孝治っち、今でも性転換ばしちゃったショックから、完全に立ち直ってないみたいっちゃねぇ☂ やっぱわたしたちって、前途多難なんやねぇ☃」


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