『剣遊記12』 第六章 サングラスが年貢を納める日。 (3) 荒生田が自分の前まで伸びてきたラリーの長い鼻の先を、これまた優しい仕草でもって、右手でゆっくりと撫で始めた。
「?」
横から見ている孝治にはよくわかるのだが、象――ラリーの両眼と荒生田の三白眼が、視線を合わせたとたんだった。巨象がパオーー……と、なんだか悪夢から覚めたかのように、見事に鎮まり返ったではないか。
「お……おい、ラリー?」
もちろん象の頭に跨り、必死になって鎮めようとしていた博美が、一番ポカンの顔になっていた。だけど、気の取り直しも早かった。
「ゆ、ゆくしみてえじゃぬーやがぁ! おめえ、ラリーをひざまずかせてくれたんばぁ?」
その博美に、荒生田がニヤリと、白い前歯を見せていた。
「ゆおーーっしぃ! これでもうラリーもおまえさんも大丈夫っちゃ! これからもなんかあったときは、こんオレに任せんしゃい♡」
「や、やー……でーじじょーとーないきがーだねぇ♡」
孝治はこのとき、気づいていた。ラリーの頭の上から荒生田を見つめる博美の瞳に、なにかポッと燃えるなにかが写っている状況に。
「う、嘘っちゃろ……☁ 前からもしや……っち思いよったとやけど、今度こそもしかして博美さん……ほんとに本気なんけ?」 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |