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『剣遊記12』

第六章 サングラスが年貢を納める日。

     (12)

 孝治たちの見つめる象――ラリーの背中では、現在次のような会話が交わされていた。

 

「おれ、やーをどぅまんぎるほど見直したんだある☺」

 

「『どぅまんぎる』ってのは沖縄弁で『ビックリ』ってことっちゃねぇ✍ それほど見直すっち、どげんことや? なんか今までオレんこつ、誤解でもしとったんけ☞」

 

「あきさみよー、そんなんじゃねえよ☺ このラリーのことばぁよ☟」

 

「ラリーんことけぇ?」

 

 自分ではなく象の話だとわかり、荒生田は少々、落胆の思いになった。そんなサングラス戦士の本心に、果たして気づいているのか、いないのか。博美はラリーを巧みに誘導しながら、目線を前に向けたままでしゃべりを続けた。

 

「このラリーは、これでいっぺーお転婆娘だわけさー☺ だからおれ以外のやったーには、おとなしく言うことを聞かせることができなかったんばぁよ☆ それがやーは、おれがやっても駄目なほど暴れてたとき、ほんのゆんたくと一回撫でただけで、ラリーをゆくいさせやがった♋ そのときのおれって、でーじくやしい思いがしたもんばぁよ✌」

 

「へぇ、そうっちゃね♠」

 

 本来、象の話などに、関心の湧かない荒生田であった。だけど博美の言葉でだんだんと、興味しんしんの気に変わっていた。

 

「それに、こう言っちゃあなんだわけさー、象って動物はじょーとーな人とふらー(沖縄弁で『馬鹿』)な人を、それこそ一回見れた瞬間に、見抜くことができるだある✍ それが未来亭のいったーの前じゃあずっとおとなしいだったしぃ、ほんとにあきさみよーだったんばぁよ✌ つまりこれは、少なくとも未来亭にはふらーでひんがーなワルはいねえってことやっしー、なによりもやーの言うことを聞いて、すぐに興奮から冷めたんは、ラリーがやーを善人として認めたからだと思うんだわけさー✌」

 

「オレが善人けぇ〜〜☻ よすっちゃよ☢ オレは金のガツガツ亡者で調子のええだけの男なんやけ☻☻」

 

「そう言って謙遜するところが、またいっぺーじょーとーなんだあるぅ♡」

 

「そ、そうけぇ……☻」

 

 さすがの荒生田も、正直ここまで褒めて持ち上げられると、逆に穴があったら入りたい気持ち。

 

 この世に生を受けて、二十と二年。ナンパや遊びで女の子たちと渡り合った日々は数知れず。だが大真面目な女性との会話になれば、反対に奥手となる純情な一面が顔を出す。

 

 このように矛盾した二面性が、おのれの中で同居をする男――それが荒生田和志なのだ。


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