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『剣遊記12』

第六章 サングラスが年貢を納める日。

     (10)

「と、言うことは、ぼくたちはつまり……出汁{だし}やったんですねぇ☺☻」

 

 いつもは孝治以上に鈍感やと言われる裕志が、一番早く黒崎店長が言いたい話の内容に、気がついたりする。

 

 世の中ってやっぱり、不思議な世界である。

 

 ここで肝心の孝治のほうは、言葉の意味が、まだいまいちわかっていなかった。

 

「『だし』って……どげんことやろっか?」

 

 どうしてもわからないので友美に尋ねてみて、思いっきりに渋い顔を返された。

 

「もう孝治ったらぁ……つまりわたしたちはぁ、東天の野望ばあぶり出す、言わば囮みたいなもんやったと☢ これはもうさすがやけど、店長の作戦がうまくいったとしか言えんちゃよ♐」

 

「うわっち! おっとりぃーーっ!?」

 

 ここまで説明をされて、孝治はようやく我が身の立場に気がついた。

 

 相変わらず孝治の頭は、勘の進化が遅かった――と言うしだい。

 

 これはこの際ほっといて、孝治は早速、黒崎に喰らいついた。

 

「そげなぁ、いくら店長がおれたちの雇い主やからっちゅうて、こげな人ば馬鹿にした扱いはひどいんやなかですか♨ そりゃおれたちがまだ半人前やっちゅうことは自覚しとうとですけど、やけんっち、おれたちかてプライドっちゅうもんがあるっちゃよ♨」

 

「まあ、その件については、僕も悪かったと思うとうがや」

 

 かなり勢いのある孝治から突っ込まれては、さすがの黒崎も、顔に多少の苦笑いを浮かべるしかないようだ。

 

「結果的に利用しただけだった件は謝るがや。ただし今回は陣原家から多額の解決料を頂いているから、月末の給金に奮発することにするがね」

 

 それから黒崎は、背広の左側の内ポケットを右手でまさぐり、一枚の用紙らしい紙を取り出した。その次に馬車の右側窓際に座っている(ピクシーなので、そこが腰掛けるのにちょうど良いらしい)、秘書の勝美に顔を向けた。

 

「これが陣原家からもらっている小切手の一枚だがね。不渡りっとかそういう心配もなさそうだから、安心するがええがや。そうだよね、勝美君」

 

「はい♡ 店長のおっしゃることに、すらごと(佐賀弁で『嘘』)はありませんばい♡」

 

 勝美もニコやか顔で、黒崎店長に応じていた。それを聞いた孝治は、我ながらの機嫌が、物の見事に修復したような気持ちになった。

 

「まっ、そんならそんで、よかことっちゃねぇ☆☀♡☺」

 

 とにかくお金の話が出たとたんに――であった。怒りの感情など、どこか遠い所。銀河の彼方へと、消え失せたようである。


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