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『剣遊記12』

第六章 サングラスが年貢を納める日。

     (1)

「どきんしゃい!」

 

 そんな混乱しきっている現場に、一目散で友美が飛び込んだ。孝治もあとから続いた。

 

 いつものとおり、友美の底力は大した気丈ぶりだった。東天の周りを囲んでいる大の男三人(馬鹿ヤクザ)を、小さな体であっと言う間に押しのけたのだから。

 

「お、おい……友美ぃ……☁」

 

 孝治でさえも、状況がよく飲み込めていない最中だと言うのに。

 

 それはさて置き、友美が倒れている東天の顔を、真上から覗きみた。

 

「やっぱり、っちゃねぇ……✍」

 

 友美にはなにやら、心当たりがあるようだった。それを孝治は訊いてみた。

 

「『やっぱり』って……いったいなんがどげんなっとうとや?」

 

 友美が孝治に顔を向け、真剣そうに答えてくれた。

 

「こん人……自分で自分の邪眼にやられちゃったんちゃねぇ♋ それに自分で自分ば操るなんちできんもんやけ、けっきょく自己催眠状態になるしかなかっちゃみたい☻」

 

「なんねそれ?」

 

 女魔術師――友美の説明で、孝治はほとんど唖然の思いになった。それから遅ればせながら、孝治も倒れている東天の顔を、上から眺めてみた。

 

 言われて見れば、確かに――だった。東天の開かれたままである両目は、うつろな感じ。さらに加えて焦点が、完全にボヤけている状態にも見えていた。

 

「店長、これって?」

 

 本来ならば、魔術師を倒した大功労者である荒生田先輩に、事の真相を尋ねるべきであろう。しかし、実際に訊いたところで埒の明かないのが明白な感じ。だからこそ孝治は、黒崎に質問の矛先を向けたのだ。

 

 そんな孝治の胸の内が、さすがにわかっているようだった。未来亭の店長が、これまたいつもの澄まし顔で答えてくれた。

 

「簡単なことだがや。この魔術師の邪眼が荒生田のサングラスに反射しただけの話だがね」

 

「うわっち? 反射?」

 

 むしろ呆気に取られた思いとなった孝治に、黒崎が追加で説明してくれた。

 

「つまり、東天とやらの眼の光が鏡に反射するように、自分に跳ね返ってきたってことだがね」

 

「そ、そげん、簡単に……ですけ?」

 

 黒崎の返答は、まったく起こりそうに思えない、まさに御都合主義そのものだった。だけど現実にその方法で魔術師に勝っているのだから、これはこれでそのとおりなのであろうか。

 

 もはや孝治は無理矢理的に、自分自身を納得させるしかなかった。

 

「まっ、勝ちさえすりゃあ、もうなんでん良かっちことやね☻♋」

 

 そんなところで勝利者である荒生田が、ここぞと鼻を天狗にしていた。

 

「ゆおーーっし! どげんや、孝治♡ これがオレ様の実力っちゅうもんやけねぇ☀☆」

 

 それも自慢のサングラス😎を、キラリと光らせながらにして。おっと、前歯も。

 

『荒生田先輩のサングラスっち……✍』

 

 一部始終を、なかば呆然の顔で眺めていた涼子も(孝治と同じ)、ここで再び、ポツリと漏らしていた。

 

『ずっと前から、いくら壊れたかて勝手に自己修復ばしよったけど、今度は魔術撃退の最終兵器になっちゃったってわけなんよねぇ♋ あたしますます、荒生田先輩っちゅう人が、訳わかんなくなっちゃったばぁい……☁』

 

「そうっちゃねぇ♋」

 

 倒れている東天からいったん離れ、涼子のそばに戻った友美も、幽霊のつぶやきに同調していた。

 

「まあ、わたしんほうは先輩との付き合いはずっと長いはずっちゃけど、ますますわかんないっちゅうのは、わたしも涼子といっしょやけねぇ♐」

 

 しかし東天が御陀仏になったからと言って、事態の収拾は、まだ完全に終わっていなかった。


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