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『剣遊記 番外編W』

第五章 それでも戦士はやめられない。

     (8)

「ようもあたいば、船ごとひちゃかちゃしようとしたばいねぇーーっ!」

 

 怒りに任せてボートの上にバシャッと飛び上がった清美の全身からは、海水がポタポタと、何滴ものしずくになって落ちていた。

 

 その姿かたちはまさに、『鬼気迫る』の表現がピッタリの様相。

 

「あわわわわ……☃」

 

 すぐに顔面蒼白の船長が、口から泡を噴きながらで、そんな清美に応えようとした。

 

「わ、わたしやなかとです! こん男、大豊場が船ごと吹っ飛ばしちまえっち言うもんですからぁ!」

 

「うんがぁ! 裏切るとけぇ!」

 

 船長から右手で指を差された大豊場が、自分も震えながらで逆ギレした。

 

「こがんなったらせからしか女ばひとりばぁい! 全員で叩っ殺すとたぁーーい!」

 

「は、はい!」

 

 その女ひとりに、初めっから散々にやられているのだ。それがわかっていながら、もはや大豊場の頭脳は、完全に機能停止状態となっていた。

 

しかし船員たちにも、悪の大元のヤケクソが伝染していた。彼らは各々、ボート漕ぎに使っていたオールを武器にして、これで清美に襲いかかってきた。

 

「うがぁーーっ!」

 

「死にさらせぇーーっ!」

 

 その数九人。いずれも船から、仲間を見捨てて逃げた面々であった。

 

「まっごあくしゃうつぅ! わっどんらとお遊戯すんのは、もう飽いたんばぁーーい!」

 

 もちろん今さら、雑魚どもとのドンパチなど、豪傑女戦士の求める戦いではなかった。

 

「舐めんやなかぁーーっ! こんあご(熊本弁で『口』)ばっかの半端モンどもがぁーーっ!」

 

 せまいボートの上だった。たったひとりの女性に向かって九人ものヤローたちが、一斉に飛びかかった。だが、戦いの場がこのような小さな空間に限定されると、ひとりでいるほうが、逆に有利となる場合が多いのだ。

 

「おちゃっか野郎ぉ! あたいはこっちばぁーーい♥」

 

「いじきたなか女ばいねぇ!」

 

「ちょこまか動くんやなかぁ!」

 

 理由は味方同士の相打ちを恐れて、思い切って武器――オールが振れないからである。その反対で清美のほうは、これはもう遠慮など、まるで考える義理はなし。

 

「あたいっから行かせてもらうったぁーーい!」

 

「ぎゃぼっ!」

 

 清美の空手チョップが、ガスッとひとりの脳天を叩き割った。この一撃を皮切りにして、あとは殴るわ蹴るわ引っ張るわ投げ飛ばすわ。おまけに頭突きから真空飛び膝蹴りの百花繚乱。たちまち始まる、清美の一方的大乱闘の大活劇。おかげでいっぺんに、海上でケガ人の山が出来上がったわけ。


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