『剣遊記 番外編W』 第五章 それでも戦士はやめられない。 (7) 少々時間を遡る(これもよく使うパターン)。
船に爆薬と清美たちを置き去り。おのれ自身は脱出に成功したつもりでいる大豊場は、薄気味の悪い笑い声を上げていた。
「……ぐふ、ぐふふふはははははははっ! ぎゃはははははっ! や、殺ったばい! 本城清美ば殺ったんばぁーーい! この大豊場様がやねぇ!」
同じ脱出ボートに乗っている船員たちからは、次のように思われていた。
「こん人……気が逝っちゃったばいねぇ……☠」
それはとにかく、今まで散々悪の犯罪業界を震え上がらせてきた本城清美を、本当に抹殺してのけたのだ。従って大豊場の狂喜乱舞ぶりは、ある意味理解ができない話でもなかった。
つまり清美を始末した功績によって、大豊場の裏社会における名声と株の両方が、大いに上昇する未来となるであろう。
「やったんやけねぇ! これでうったちゃ、組織の上位幹部に成り上がりばぁーーい☆☆」
ところがそんな大喜びを打ち砕くような悲鳴を、大豊場のすぐそばで控えている船長が上げてくれた。
「た、大豊場様ぁ! ほ、本城清美がぁーーっ!」
「なんね、本城の幽霊でも出たんけ✑✐」
大豊場自身は、まだ喜びの最中にあった。だが彼以外の船長や船員たちなど、ボートに同乗している者たち全員がすでに大慌ての様子で、海上のある一点を、それぞれ手を伸ばして指差していた。
「そ、そがんなぁ!」
「いじくそ信じられんばい!」
「鎧ば着たまま泳ぐなんちぃーーっ!」
「ぬあにぃーーっ!」
ここまで話が進んでようやくだった。麻薬密輸犯――大豊場も、事態が只事ではない様子に気づいたりする。けっきょくこいつの能天気ぶりも、けっこう重症的であろう。だけどはっきり言って、もはや手遅れ。
「わっどみゃあーーっ!」
ついに鎧を着たまま海を泳ぎきった清美が、ボートの後部にガッシリと、まずは両手でつかみかかったのだ。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |