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『剣遊記 番外編W』

第五章 それでも戦士はやめられない。

     (5)

 ふたりして声をそろえ、忘れていた現実を、急に頭の中でブリ返した。

 

「あんゴム粘土が言いよったとですよぉ! こん船に『爆薬』っちゅうことがぁ!」

 

「あたいらがそれば忘れてどぎゃんすっとねぇ! あいつよか先に、いっちゃん知っとったとにぃ!」

 

 これにて清美と徳力のふたりによる、元の大騒ぎが再発した。

 

「どぎゃんします! どぎゃんしたかて火は消えんし、あん樽があんまんまやったら、こん船ごと木っ端微塵ですばぁーーい!」

 

 徳力はあっと言う間に元の半狂乱。パニックの極致となった。ところが相棒の絶叫を耳に入れた清美は、逆に頭でピンときた感じになった。

 

「あんまんまやったら木っ端微塵……そうたい! あんまんまやけ、いけんとばい!」

 

 急になにかの暗示を受けたかのごとく。清美は導火線の火がいよいよ間近となりつつある木樽に向かって駆け寄り、剣をビシッと構えてみせた。

 

「あくしゃうつぅ! 混乱しくさって頭がいっちょん働かんかったばい! なんちゅうことはなか☠ こん樽がここにあるけん、いけんとたい!」

 

 それから樽を相手に戦う態勢。剣を大きく上段へと振り上げた。これはいつもの、清美定番の決めポーズ。

 

「いかんです! 清美さん!」

 

「せからしかっ!」

 

 徳力の声など、もはや鼻息による一蹴。木樽に向かってバシュッと、一気に剣を振り落とした。

 

「わわっ!」

 

 徳力は思わず目を閉じた。それから恐る恐るで開いてみた。

 

「トクぅっ! そこばどくったぁーーい!」

 

「わわっ!」

 

 見れば導火線の火が直前まで迫っている木樽を、両手で頭上にかかえ上げて仁王立ちしている清美が、目の前にいた。また木樽が元あった柱の下には、樽をそこにくくっていた太いヒモが清美の剣で切断され、甲板上にパラリと落ちていた。もっとも今は、それらをよく見ている場合ではなし。それよりも清美の大きな雄叫びが、周辺の海上の、たぶん遥か遠くまで轟き渡っている状況のほうが重大だった。

 

「こればぶん投げりゃ済むことばぁーーい!」

 

 清美が樽を頭上高くの位置でかかえ上げたまま、手すりの近くでグルグルと自分の体を大回転! 勢いがピークに達したらしいところで、渾身の大遠投を、ビューーンと披露してくれた。


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