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『剣遊記 番外編W』

第五章 それでも戦士はやめられない。

     (2)

「なにっ?」

 

 清美もふたつの瞳を凝らし、球体群の動きを見つめてみた。すると確かに、球体の群れは清美たちに襲いかかろうとはせず、逆に甲板の中央での集合を始めていた。

 

 しかも先ほどの分裂とは、真逆の行動。球体の群れが今度は集結と合体を繰り返し、やがて元の大きさである、ジャンボカボチャ大の灰色球体に戻っていった。

 

 その球体がさらにムクムクと、人のかたちに変形。二本の足を取り戻すなり、スクッと甲板上で立ち上がった。

 

 嘘の船長室でお目にした、殺し屋腑阿呂の元の姿で。

 

「うわっ! こりゃ爆薬やなかねぇ!」

 

 きちんと髪も無精ヒゲも元通りになっている腑阿呂が、火が点いている導火線を見て、大声を上げた。相変わらず自分の大事な部分を披露している、真っ裸の格好のままで。

 

「こらあかん! おれは逃げるけねぇ!」

 

 それから大慌てのご様子。腑阿呂がまたもや、体を前倒させてゴロリと一回転。あっと言う間に灰色の球体へと早変わり。

 

「またけぇ……☠」

 

 もはや変身シーンに見慣れている清美は、面倒臭い思いでつぶやくのみ。だけど、このあとが違っていた。

 

 灰色球体がまたもプチプチと自分で分裂を始め、瞬く間に何百個もの小玉となって散らばった。それからまた一個一個の球体が、一斉に自分からペチャンコになって平たい紙状となり、ひとつひとつがペラペラ型の正方形に変化したのだ。

 

「あん人……今度はなんする気なんでしょうねぇ?」

 

 徳力が現在最大のピンチ状況も忘れたかのように、清美にノンビリ口調で尋ねた。もちろんこれに答えることも、今の清美にはできなかった。

 

「何度も言わせんと! あたいが知るかっちゅうと♨」

 

 やがて何百枚になったのだろうか。灰色の正方形の紙(十五センチ四方くらいか)の一枚一枚が、またもひとりでペタンパタンと折り畳みを繰り返し。なんと全部が全部、同じかたちの紙飛行機となった。

 

 それもまさに、何百機もの大編隊といった感じ。しかもそこから先が、また不思議極まる行動だった。なんと何百もの紙飛行機が一斉に、甲板を滑走して空中へと舞い上がったのだ。

 

 ちょうど追い風が吹いたことも、紙飛行機の群れ(?)にとっては、絶好の好条件だったようだ。灰色一色の紙飛行機の群れが次々と空へ舞い上がり、まるで渡り鳥のごとく、水平線の彼方へと飛び去っていった。

 

 これを下から見た限りでは、完全に鳥の大群。しかしまぎれもなく、それは人間の意思が成せる行動ぶりなのだ。


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