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『剣遊記 番外編W』

第五章 それでも戦士はやめられない。

     (1)

「ど、どぎゃんします! 清美さん!」

 

 もはや思考すら、ほとんど停止に近い状態。だからワンパターンのセリフしか、今の徳力はほざけなかった。

 

 そんな状態である相棒に、清美が返せる言葉のほうも、これまた定番の域を出ないシロモノ。

 

「あたいに訊くんやなかぁーーっ!」

 

 このように進退窮まっているふたりの所に、無数の灰色球体の群れが現われた。ブーメラン状の形態からまたも分裂して、バラバラの球体群に戻ったようなのだ。

 

「わわぁーーっ! やおいかんのまで来てしもうたばぁーーい!」

 

「なんちゅうあくしゃうつ野郎ばいねぇ!」

 

 バラバラの球体に戻ってすぐ、船室から甲板上まで徳力と清美を追って、ホムンクルスの殺し屋腑阿呂が、階段出入り口からピョンピョンと飛び出したわけ。

 

「わっどみゃ、下から上に転がり上がって来たんけぇ!」

 

 まさに清美の驚きどおり。腑阿呂は小さな玉の姿になって、ポンポンと弾みながらでここまで飛んで来たのだろう。

 

 地球の重力を強引に無視して。

 

「ふつうん玉やったらずえったいそぎゃんこつなかですけど、あん玉には人間の意思がありますけ、あぎゃんな芸当ができるとですねぇ!」

 

 まさしく徳力が解説するところの、意思がある生物としての、本領を発揮。無数の灰色球体群が、ふたり(清美と徳力)に向かって殺到した。このまま甲板上でも自由自在に跳ね回って、ふたりの戦士を痛めつけるつもりだろうか。

 

 ところが――だった。

 

「あれ?」

 

 徳力がその球体群の動きを見て、なんだか変な様子に気がついた。

 

「あの玉……ひとつに集まりようみたいですばい☞」


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