『剣遊記 番外編W』 第五章 それでも戦士はやめられない。 (14) 「ったぁ〜〜っくぅ〜〜、あくしゃうつぅ♨ あん能面店長と蝶々秘書のコンビ野郎ぉ、あごばっか♨ ぬあ〜〜にがコンサート会場の警備でぇ☠ 要するに体のよか左遷やなかねぇ♨ こん有様はよぉ☠」
「清美さん、愚痴ば言うてばかりおらんで、そんトウモロコシば早よう醤油ば塗ってくれませんけ☹」
徳力が七輪の火を団扇{うちわ}で扇ぎながら、清美相手に珍しくも仕事を催促していた。
あるアイドル歌手のコンサート会場警備任務とやらに着任した、清美と徳力のふたり組。そんな彼女たちの周りでは、いくつもの出店や屋台などが軒を連ね、かなりうるさ気味なミュージックが、周辺一帯に流されていた。また、店の前の通りを大勢の家族連れや男女のカップルなどが、にぎやかに通り過ぎてもいた。
つまりがコンサート会場周辺では、祭りの縁日に近い感じのイベントが行なわれているのだ。もっともこれが理由なのかどうかはわからないが、心なしか徳力の顔には、余裕の笑みが、ほんわりと浮かんでいた。
「でも良かったですばい☆ 海ん上での仕事ん次が、こぎゃんして陸の上での仕事なんですから☆」
反対に清美のほうは、苦虫を五億匹ほど噛み潰したような顔付き。
「せからしかぁ! ぬぁ〜〜にが、これのどこがいな、会場警備っちゅうとやぁ♨ お店でトウモロコシば焼いて売るなんち、あたいはいっちょん聞いとらんばってんねぇ☠」
いつもの軽装鎧姿からはまったく想像ができない――かつ、まるで似合わない白の割烹着姿をして、清美は屋台で悪態を繰り返した。
このような格好。未来亭の戦士仲間たち――特に孝治や荒生田どもには、とても見せられたモノではない。
天下にその名を轟かせた希代の女傑――本城清美。でもって現在のところ、焼きトウモロコシ屋の祭りねーちゃん。
そんな清美と徳力の屋台に、近所の子供たちが集まってきた。
「おばちゃーーん、焼きトウモロコシばちょうだぁーーい♡☺」
清美は子供たちに応えた。眉間に青筋を立てながらで。
「おねえちゃんばい!」
などと、大声を張り上げているところだった。清美と徳力が店を出している道路の遥か先で、なにやら黒山の人だかり。
「ケンカやケンカぁーーっ!」
「ぬわにぃ! ケンカっちねぇ!」
まさに祭りの真っ最中らしく、騒動の始まりを告げる声が轟いた。
祭りとくればやっぱり、派手なケンカが華となるわけ。
すぐに清美の全身を流れるヘモグロビンとアドレナリンが騒ぎ始めた。
「これっち会場警備ば請けもっとう、あたいらの仕事っちゅうもんばい! トクっ、行くけんね!」
「はいっ! 清美さん!」
気心が知れている徳力にも、異議なんて野暮は一切なし。女豪傑戦士が戦場に向かえば、それを裏から表から支える役目が、徳力に託された重要な任務なのだから。
「行きますばい、清美さん! やっぱボクたちは、こぎゃんないといけんとです!」
「当ったり前ったい! だけん戦士ば絶対やめられんとやけぇ☺♡」
祭囃子が流れる会場通りの中(コンサートはどげんなっとうと?)、清美と徳力――ふたりの戦士の駆ける快足音。これが異彩を放ちながらも人々の雑踏の間を走り抜け、軽やかに周辺へと響き広がっていた。
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