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『剣遊記 番外編X』

第一章  狙われた(小心)魔術師。

     (1)

「こ、ここってどこねぇーーっ!」

 

 平凡――かつ優柔不断――かつ超小心者と、巷では有名な青年魔術師――牧山裕志{まきやま ひろし}。

 

 そんな彼の目覚めた場所。それも超深かった眠りから覚めた所は、名も知らない古城らしい石造り建造物の、これまた不気味な一室だった。

 

 なにしろ四方の壁全部が冷たい花崗岩{かこうがん}のようなブロックばかりなので、恐らく外見もそうやなかろっか☠ 見えとらんちゃけど☃――と裕志は、怯えながらも正確に考えてみた。

 

 このような気色の悪い建造物。しかもわずかに外の景色が窺える鉄格子付きの覗き窓からは、薄気味のこれまた悪い暗い森が、建造物周辺一帯に広がっているようだった。

 

 その裕志自身の心の内なる努力はともかくしとて、いるのだ!

 

 そんな怪奇ドラマにでも出てきそうな場所を厳選。おのれの秘密研究所にするような、変態趣味のモノ好きが。

 

 しかし場所も場所だが、青年魔術師――裕志自身は、意識の覚醒と、同時に気がついていた。それは自分がとんでもないほどに不自然な姿にされ、木製の台の上で寝かされている状態に。

 

「なっ、なにこれぇ?」

 

 まずは不自然第一号で、体の自由が完全に束縛されていた。

 

 早い話が、胴体と両手両足をゴム状のヒモで厳重に縛られ、感触の冷たい木製寝台の上で、仰向けの格好でいるのだ。

 

 これではまるで、『まな板の鯉』の扱いそのもの。ただし口までは縛られていないので(つまり猿ぐつわをされてはいない)、声を出すのは、一応可能であった。

 

 かと言ってしゃべられるからと、それが事態解決の糸口になるとは、全然言えない感じでもあった。なぜなら裕志を束縛している部屋の中自体がとても薄暗くて寒々しく、ひと目見ただけでここが尋常な研究所ではなさそうなことを、まさしく容易に想像させてくれるからだ。

 

 なお裕志は、一応魔術師の黒衣を着ているままでいた。これがもし全部脱がされた状態でいれば、たちどころに風邪を召したに違いなかったところであったろう。なにしろ裕志は、超虚弱児としても、世間一般では有名な存在なのだから。

 

 それでも裕志は、魔術師の端くれ。恐怖心に脅かされながらも、乏しい気力入りの観察眼で、部屋の状況を見回し続けた。そこには数多くのランプ類や試験管にフラスコ瓶。さらには寝台の左にある事務用と思われる木製の机には、内容のむずかしそうな書物やなにに使うのかさっぱりわからないような小道具(洗面器型や理科の実験道具みたいな物)などが、それこそ所狭しと放置されていた。

 

 これが不自然第二号である理由。ここが裕志と同業である魔術師の研究所だろうことは、ほぼ間違いのなさそうな雰囲気であった。


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