『剣遊記 番外編W』 第五章 それでも戦士はやめられない。 (11) もともとから許す気など、実は頭の芯から微塵もなかった。しかしこれにて、清美は本気の猛本気モードへと突入した。
「こんうったるっぞ、ぬしゃあーーっ!」
「あひえーーっ!」
すでになんの頼りにもならないナイフを、いまだに右手で握ったままでいる大豊場。そんな彼に清美は、真正面から飛びかかった。
それもせまいボートの上。さらに清美の暴行(本来なら過剰防衛行為で犯罪)で、まったく動けないひん死の状態にある、船長や船員たちが寝そべっている中であった。
「こんおちゃっか野郎ぉ! たいぎゃ腹かくばい! こん(自粛)野郎ぉ! こぎゃんなったら(良心)やって(検閲)やって(規制)やって(禁句)になりゃあがれぇーーっ!」
完ぺきに女豪傑の怒りが爆発! 麻薬密輸犯を思いっきり、タコ殴りのボコボコ連続乱れ打ち。ボカボカボカボカボカボカボカボカボカッと、大豊場の顔面がたちまち、デコボコの有様と化していた。
こんな場合、逆に訴えられるぞ、ふつう。
とまあ、そのような諸問題は棚に上げ(いいのけ?)、もはや大豊場に残された道は、ただひとつだけとなった。
「うわああああああん☂ もうやめでぐでぇぇぇぇぇぇっ☂☂ 降参するぅ☂☂☂ 逮捕もされるけぇん☂☂☂☂ オレば刑務所に入れてやぁぁぁぁぁぁぁっ☂☂☂☂☂ もう泣いちゃうばぁーーい☃」
女々しく号泣して、助命を嘆願するしかなかった。まだしゃべれる余力も凄いと思うが。
もちろん頭に血が昇り切り、聞く耳なしの清美は、その手の暴走を止めなかった。
「せからしかぁーーっ!」
けっきょくおのれの気が本当に晴れるまで、総計十四万八千五百六十一発の拳骨を、大豊場に喰らわせ続けたのである。
その日の夕方近くまで。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |