『剣遊記13』 第三章 空のバカンスは嵐を呼んだ。 (9) さらに若戸の足元から、キャンキャンと一頭の子犬が飛び出した。無論真っ先に、千夏が大反応した。
「ああっ☀☆ ヨーゼフちゃんですうぅぅぅ♡❤💛 またお会いできて千夏ちゃん、うれしいですうぅぅぅ!!☺☺」
そうなのである。若戸の愛犬であるミニチュア・ダックスフンド型ケルベロスであるヨーゼフが、この飛行船にも乗り込んでいたわけ。そのヨーゼフが速攻で千夏に飛びつき、三つの首から出したベロ👅で、千夏の顔をペロペロペロと舐めまくった。
「きゃん☺☺ ヨーゼフちゃん、くすぐったいですうぅぅぅ☺☀☆」
愛弟子が大喜びしている様を笑顔で横目にしつつ、一番に指名を受けていた美奈子が、先頭に立って若戸へ挨拶をした。
「まあ、ようけ大きな飛行船でおますんやなぁ☺ うちもこない大きい飛行船は、生まれて初めてお目見えさせてもらいますさかいに☻」
「お誉めに授かって恐縮いたしますばい☺」
若戸もまた、満更でもない笑みを浮かべていた。
「いやあ、僕も美奈子君と同じですがや。見事な飛行船をお持ちなんですなぁ」
黒崎もここで、紳士らしい社交辞令にでた感じ。
「本日はこのような素晴らしい船にご招待をしていただき、真に感謝いたしますがや。この日を始まりとして、銀星堂と未来亭双方の発展を、心から願わせていただきますがね」
「う〜ん、やっぱ歯が浮くっちゃねぇ☻」
孝治の小声でのささやきに、友美が口元で右手人差し指を立てた。
「しっ!」
無論今の小言は幸いと言うか、若戸の耳まで届いてはいなかった。
「それでは未来亭の皆さんのパーティーの席は別の部屋に用意をしていますので、ここにいる星和{せいわ}が、皆さんをご案内いたします☀」
若戸の言う『星和』氏とは、前に屋敷で会った若戸家の執事の名前のようだ。すぐに孝治の記憶にも新しい燕尾服姿の初老の人物が若戸の背後から急に現われ、まずは給仕係の面々を恭{うやうや}しく、隣りの部屋へと招待してくれた。
「では皆々様方、こちらのほうの部屋へどうぞ、でございます☛ 今回は世にも楽しい話でございますゆえ☺」
前回とは違って、きょうはなにも恐れる問題はなし。そのためだろうか。由香たちを連れていこうとしている星和の顔は、初めて会ったときよりも、どこか温和そうな感じがするっちゃねぇ――と孝治は思った。
もちろん孝治も友美と秋恵といっしょ。星和のあとに続こうとした。
「どげなパーティーかようわからんちゃけど、ここまで来た甲斐があったっちゅうもんちゃねぇ♡」
孝治の頭の中は、すでにパーティーとやらで用意をされているに違いない、豪華な料理で満ち満ちていた。
ところがここで、孝治は背中から冷や水を浴びせられるような声を、いきなり急にかけられた。
「ちょい待たんね☞ 孝治くんと友美ちゃんと秋恵ちゃんはこっちばい☛☻」 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |