『剣遊記13』 第三章 空のバカンスは嵐を呼んだ。 (7) その登志子が言ってくれた。孝治の驚きを、思いっきりおもしろがっているようにして。
「そげん細か梯子ば登らんで、こげんして魔術で上がったほうが早いっちゃよ☺ 孝治くんもこっちば来んね☆」
孝治は思わず言い返した。
「そげん言うたかて、こっちは店長が登れっちゅうけ、こげん苦労ばして上がりよんばい♨ そん店長も楽して上がってええとね!」
「まあ、今回は僕が悪かったがや」
口で言っているほどの謝罪顔ではない黒崎が、孝治にヌケヌケとぬかしてくれた。
「孝治を行かせたあとで、ここにいる美奈子君が言ってくれたんだがや。うちやったら魔術で全員、すぐに飛行船まで上げられますさかいに、っちゅうことだがね」
「そないなことどすえ☻☻ ほな、お先に✈」
美奈子も悪乗りのつもりなのだろうか、そのまま上昇速度をさらにアップ。孝治を追い越して、先に飛行船へと昇っていった。
「なんちゅう薄情な連中やろっか♨」
孝治の腹は煮えくり返ったが、考えてみれば、いつも起こっている話でもある。気を取り直してさらに梯子を登っていけば、今度はふだんから耳慣れしている声も聞こえてきた。
「ごめん☻ 孝治には悪いっちゃけど、わたしも先に行かせてもらうっちゃね☁」
「うわっち! 友美もけ?」
声に振り向けば、思ったとおり。美奈子と同じ魔術師業である友美も、秋恵を始め残りの給仕係たちを浮遊させ、飛行船へと上昇していた。
「もうよかっちゃよ♨ 早よ先ば行きんしゃい☚」
これ以上文句を言っても無意味なので、孝治は友美も先に上昇させた。
けっきょくこの間、孝治はひとりでゆらゆらしている縄梯子を、苦労して登ったわけ。その最中に美奈子と友美は二往復するだけで、きょうの参加者全員を、簡単に飛行船まで搭乗してのけたのだ。
「美奈子さんもおれが上がる前に、早よこれに気づいてほしかっちゃねぇ☹」
飛行船まで登りきってからの孝治の愚痴であった。だけど先に上昇して待ち構えていた美奈子はやはり、いつもの冷静冷淡ぶりでいた。
「そないに言われましたかて、人間いいアイデアと言うもんは、そうそうあんじょうよう出るもんやあらしまへんのやで☻ ほな、そう言うことでおまんのやわぁ♥」 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |