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『剣遊記13』

第三章 空のバカンスは嵐を呼んだ。

     (4)

 北九州の上空、高度はおおよそで五十メートルくらいであろうか。

 

 全体が銀色に輝く、巨大な葉巻型の風船――もとい飛行船が(全長は遠目で見ても、やはり百メートルくらいはありそうだ)、東の空から未来亭の方向に、ゆっくりと飛来してきたのだ。

 

「く、首が痛かぁ〜〜☠」

 

 初めに発見をしてから、早くも十分経過。孝治は上空を見上げた格好のままでいた。これでは首の筋を痛めて当然であろう。

 

「あっ、止まった

 

 同じく空を見上げていた友美が、孝治の右隣りでささやいた。

 

 銀色飛行船の形状は、まさに典型的なる葉巻型。さらに全体的に流線型。後部には四枚の尾翼があり、プロペラが四個回転を続けていた。

 

「あのプロペラで速度を調節していると思うがや。それから船尾の魚の尾ひれみたいな尾翼は、上下左右にきちんと四枚並んでいる形状からも見てわかるとおり、真上に垂直に立っている舵{かじ}で、飛行船の進路をコントロールしているようだがね」

 

 以上が同じく飛行船を見上げている、黒崎店長の解説。

 

「……とまあ、今言ったとおりだがね。それにしても飛行船で空の上からのご来店とは、未来亭の歴史始まって以来の大イベントだがや」

 

「なしてあの飛行船が、うちに来たっちわかるとですか?」

 

 ここでふと湧いて出た疑問を、孝治は黒崎に訊いてみた。

 

 すぐに回答が戻ってきた。黒崎が左手を上げて、飛行船を指差した。

 

「あれを見るがや。飛行船の船底に、若戸家の紋章が描かれとうがね」

 

「あっ、ほんなこつ☝」

 

 あれほど散々に見続けていながら、孝治は今になってようやく、若戸家の印に気づいたわけ。迂闊と言えば迂闊であるが。

 

 ちなみに(が多いけど)紋章のデザインは、全体が赤い色をした、大きな吊り橋みたいな絵となっていた。


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