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『剣遊記13』

第三章 空のバカンスは嵐を呼んだ。

     (3)

「店長、私たちば今回ご招待して迎えに来てくれるっち、先方の若戸さんから言いよったとに、ちかっと遅うありませんか?」

 

 秘書の勝美が黒崎の右耳のそばで、宙を舞いつつ時間を気にしていた。

 

「ご招待っち、向こうがこっちば迎えにくるとですか?」

 

 くわしい予定を聞いていなかった孝治は、勝美と黒崎に尋ねてみた。孝治自身はきょうはこちらから先方の家まで、テクテク歩いて行くものだと思っていたのだが。

 

 先週訪ねた洋館であれば、もう道もだいたい覚えている強みもあるし。

 

 しかし孝治の問いに黒崎は、空を見上げつつで答えてくれた。

 

「そうだがね。だからきょうは店の前を広く開けておいてほしいと、若戸家から言われてあったんだが……」

 

 ここで黒崎が空を見上げた理由も、孝治には全然わからなかった。

 

「なして店長は、空ばっか見よっとですか? まさかドラゴン{竜}に乗ってくるわけやなかとでしょうし?」

 

 ちなみにドラゴンの化身こと到津福麿{いとうづ ふくまろ}は、今回某サングラス😎戦士に引っ張られて遠くに遠征中。少なくとも孝治よりは多忙といえた。

 

 それはとにかく、この問いにも黒崎は、ほんのり苦笑気味の顔になるだけだった。

 

「さあ、それは僕にもわからんがや。まあ若戸家にドラゴンの知り合いがいるとも、聞いたことはないんだけどな」

 

 だがやはり、この場で一番先に異変に気づいた者は、例によって予想外でありながら予想内の娘であった。

 

「ああ、美奈子ちゃぁぁん! おっきな風船さんがぁ、こっちに飛んできてますですよぉ☆☆☆」

 

「おや? ほんまでんなぁ☝」

 

「さっすが千夏やで☆ いつもんことながら、千秋も感服もんやがな

 

 千夏が一番に東の空を右手で指差し、美奈子と千秋が感心していた。

 

 もちろん孝治もつられて、空の上を見た。

 

「うわっち!」

 

 それからこの場で、大きなジャンプをする気になった。ここは野外なので、本来遠慮をする必要はなかった。だけど今回ばかりは、そのタイミングを失った。なにしろ千夏が発見したモノが、孝治にとっては予想外過ぎたシロモノであったから。

 

 それは東の空の彼方から未来亭に近づいてくる、金色に光る長いモノだった。

 

 孝治は一応、話だけは聞いた覚えがあった。それがいつかは忘れたのだが、しかしこの瞳でそれを見る事態は、まさにきょうが初めての日となった。

 

 孝治は右手で上空を指差して叫んだ。

 

「あ、あれって……飛行船ばぁーーい!」


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