『剣遊記13』 第三章 空のバカンスは嵐を呼んだ。 (20) ひととおり、恐竜たちの見物を終えてからだった。窓ガラスの光景が一瞬にして、画面変換。元の北九州市街地へと切り替えられた。
「これはうちかて知りもうさん、新手の高度な魔術でおますなぁ〜〜♋」
天才魔術師と自他ともに認められている美奈子でさえも、この新魔術には大きな驚きを隠せないようだった。ちなみに『天才魔術師』だと、美奈子は自分で自分を本気でそのように思っている節があり。
「では次は、海の上のお散歩と参りましょう☞」
若戸が微笑みを浮かべた顔のままで、上着の右側内ポケットから、なにやら長方形の薄い金属の板を取り出した。それからその金属板に声をかけた。
「船長、船を響灘に向かわせてくれ☞☞ 高度は少し上げたほうがええやろうなぁ☛」
するとこれまた驚くべき事態。金属板から声が発せられたのだ。
〈了解しました☎〉
「そ、それって……なんですか?」
興味にかられた孝治は、さっそく若戸に尋ねてみた。若戸はやはり、微笑みを崩さないままで答えてくれた。
「なんでもありませんばい☻ ただの携帯電話ですから☺ それよか銀星号の向きが変わりますけ、この風景ば存分に楽しんでくださいね☚☻☛」
「けーたいでんわ?」
孝治にとってはまさに、チンプンカンプンな内容の返答。だけどその『けーたいでんわ』とやらについて、さらに訊こうとする前だった。千夏が窓の外の景色――遥か遠方を、突然左手で指差した。右手はいまだに、ヨーゼフを抱いたまま。
「あれぇ? あれはなんでしょうかぁ?」
現在銀星号――飛行船は響灘の海上に船首を向けているらしいので、右舷側の遠方は、東の方角となるだろう。千夏がその方向に、なにかを見つけたようなのだ。
「ちっちゃい鳥さんたちがぁ、たくさんたくさんこっちに飛んできますですよおぉぉぉ☞☞☞」
「うわっち? ほんま、あれ、なんやろっか?」
孝治も新たな興味を感じて、千夏が左の人差し指で差す方向に、瞳を凝らしてみた。これは早くも、『けーたいでんわ』どころではなくなった感じ。それよりも確かにゴマ粒のような点々が、空いっぱいに広がっていた。しかもそのひと粒ひと粒が、明らかに意思の力でもって、飛行船銀星号に向かってきているところだったのだ。
孝治はすぐにピン💡ときた。
「あれっち鳥やなかっちゃよ! なんか人が飛んでるみたいな恰好ばしちょうばい! もしかしてあれが、噂に聞くフライング・ヒューマノイドやかなろっかぁ♋」
「えっ! あ、あれは!」
孝治の驚き声に反応したようだ。若戸も小型の双眼鏡を、今度は上着の左側内ポケットから取り出した。それからすぐ、空いっぱいに広がる未確認飛行物体に目を向けた。しかも彼の判断は、孝治も予想外の出来事の到来であった。
「あれは……鳥でもフライング・ヒューマノイドでもなかとですよ! まさかこげなとこにおるとは聞いとらんかったとですが、あいつらは噂で聞いたことのある空中海賊……フライング・コンドルですっちゃあ!」 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |