『剣遊記13』 第四章 響灘上空三十秒! (1) 「ふらえんぐこんどるぅ……?」
孝治にとっては、初めて耳に入れる名称だった。だけど若戸の驚き方から見て、あまりお付き合いをしたくない集団なのは、だいたいわかる感じがした。
そこで一応の質問から。
「なんです? そんふらえ……やない、ふらいどちき……やなか、ふらえんぐこんどるっちゅう連中は?」
「孝治……フライング・コンドルっちゃよ⚠」
友美から右の小脇を彼女の肘で小突かれもしたが、若戸は一応、真面目に答えてくれた。
「ま、まあ、未来亭の方々は、空の上のビジネスまでは進出してないようですので、ご存知ないかもしれんとですが……♋ 早い話がさっきも言いましたとおり、空の海賊集団ですっちゃよ☠」
先ほどまでの(上から目線的)自信満々な姿勢がまるで嘘のような、若戸の声の裏返りぶり。しかし、その気弱そうな姿勢を見るだけでも、『フライなんとか』とは、やはり関わりにはならないほうがよろしい連中のようだ。
「で、どげんします?」
次に対策のほうも、孝治は若戸に尋ねてみた。どうやら、さらにくわしい説明を聞いている暇は無さそうなので。
「困ったなぁ〜〜☠」
これに対し若戸の顔は、苦渋の色に染まりきっていた。
「こん銀星号には武装なんかないとやし……やつらとの遭遇もいっちょも想定してなかったとやけ、ここは飛行船の進路ば変えて、少しでもやつらから遠ざかるしかなかとですよ☢」
「こげんゆっくりのスピードしか出せん飛行船で、あいつらから離れることなんちできるとやろっかねぇ? どげん見たかてあいつらんほうが、スピードも小回りも抜群みたいっちゃよ♐」
孝治は改めて、窓の外いっぱいに広がっている、ゴマ粒のような連中に瞳を向けた。いやゴマ粒には、もはや当たらなかった。その『フライング・コンドル』とか言う空飛ぶ集団が、すでに一部、顔の表情が見えるほどまでに接近をしていたのだ。ちなみに連中の飛行法は、三角形の凧{たこ}のような羽根を背中に装着して、それを風の揚力に乗せて滑空しているようだった。
21世紀の現代風に要約すれば、『ハンググライダー』と称すればよろしいだろうか。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |