『剣遊記13』 第三章 空のバカンスは嵐を呼んだ。 (19) 美奈子を加えて五人(美奈子、孝治、友美、秋恵、おまけで涼子)の眼下には、広大な岩山と活火山。さらにシダ植物からなる密林と、そこで蠢く巨大爬虫類――恐竜たちの姿が写っていた。
いつの間にやら北九州の市街が消え失せ、飛行船の下には異世界の光景が広がっていたのだ。
しかもたった今、五人の瞳の前を翼長八メートルはありそうな怪鳥が、ビューッと飛びぬけてもいった。遅れて窓辺に駆けつけた千夏と千秋は、もう大喜びの極致だった。
「うっわぁーーっ☆ すっごく大きなカラスさんですうぅぅぅ♡♡♡」
「どう見たって、今のはカラスとちゃうで⚠」
「い、今のはなんでっか……?」
美奈子が恐る恐るの感じで、若戸に尋ねた。孝治たちなど、こちらはもはや、唖然の極致。質問をする気力さえ湧き上がらなかった。
これに若戸が、これまた豪快に笑いながらで答えてくれた。
「あははははっ☀ いやいや今のは、翼竜の中でもけっこう有名なプテラノドンですばい✌ ふつうの市街地だけの光景じゃ見飽きるやろうと思うて、今ガラスの窓に白亜紀の北アメリカの光景を時間操作で映し出してるんですよ✌⛾」
「白亜紀の光景ねぇ……♋」
再びである若戸の自慢話を耳に入れ、孝治は改めて、眼下に広がる太古の光景に瞳を落とした。
確かにプテラノドンだけではなかった。地上には恐竜図鑑でしか見たことのないようなティラノサウルスやトリケラトプスなどの恐竜たちが、舞台狭しとばかりに激しい闘争を繰り広げていた。
「若戸さんって、けっこうお茶目なところがあるばいねぇ♡」
孝治と友美よりは、立ち直りが早いらしい。秋恵が眼下の恐竜にキャッキャッしながら感心しているが、孝治のほうは、今やそれどころの心境ではなかった。
「これっち……『お茶目』の範疇から、でたん逸脱しちょうっちゃよ☠」 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |