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『剣遊記13』

第三章 空のバカンスは嵐を呼んだ。

     (18)

「どげんです☀ 実に素晴らしか眺めでしょう☆」

 

 若戸が一同を案内してくれた場所は、お見合い会場の、すぐ隣り。飛行船右舷側にある別の展望室だった。

 

 ここも右舷側全体が大きなガラスの窓になっていて、高空から眼下の北九州市街が一望の下に見渡せるという、さらなる絶景の場となっていた。

 

 要するに飛行船全体が、ある意味展望室そのものと言えるのかも。早い話、これこそ空飛ぶ宮殿――飛行船の醍醐味なのだから。

 

「凄かぁーーっ!」

 

 なんだか不満気味だった孝治も、思わずの無我夢中。真下に広がる市街地の光景に、瞳を大きく見開いた。自分でも自覚をしているが、まるで無邪気な子供に戻ったような気分だった。当然、もともとから無邪気な子供である千夏など、もう大騒ぎの大はしゃぎの体でいた。

 

「ほんとすっごいでしゅうぅぅぅ! まるで下の町さんがぁ、アリンコさんみたいですうぅぅぅ☆★☆ ほらぁ、ヨーゼフちゃんもぉ見るさんですうぅぅぅ☆☆☆」

 

 ここでもミニチュア・ダックスフンド型ケルベロスを、両腕を使って胸の所でかかえた格好で。

 

「もう千夏にはかなわんなぁ……☹」

 

 妹の無邪気過ぎるはしゃぎ様に、姉の千秋が恥ずかしそうにして顔をうつむかせていた。無論友美と涼子と秋恵も、眼下の景色に大夢中の真っ只中。孝治と並んで、窓ガラスにピッタリと顔面をくっ付けた格好でいた(涼子など、ガラスを通り抜けている)。

 

「これ、孝治はんたち、そないにガラスに顔を当てはって、もし万一割れたりしたら、皆はん下に落っこちてしまいそうやで☠」

 

 美奈子が修学旅行引率の教師みたいに、孝治たちを軽く注意してくれた。これをまた若戸が、軽く笑いながらでの自慢話を繰り返した。

 

「はははっ、そんガラスは先ほども説明しましたけど、特別の強化製造をしていて象が踏んでも壊れない、絶対にヒビも入らないほどの強度があるとですよ✌ やけん、そげん心配せんでもよかとですよ✌

 

「はあ、そうでっか✍」

 

 美奈子は軽いため息を吐いて、若戸の言葉にうなずいた。それから彼女自身も孝治たちと並んで、広大な空のパノラマに瞳を向けた。

 

「ほんまにどえろう素敵な……」

 

 美奈子はまさに感嘆の感じでささやいた。孝治たちにも聞こえるような声で。

 

「白亜紀の光景でんなぁ……♋」


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