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『剣遊記13』

第三章 空のバカンスは嵐を呼んだ。

     (16)

 孝治のおもしろくない気分は脇に置かれ(もっとも誰も気づいていないけど)、お見合い自体は順調に話が進んでいるようだった。

 

「幼少のころに、一度だけお目にかかったことがあるとですが……美奈子さんはいったい、おいくつのときから魔術の勉強ばなされていたのですか?」

 

 話の題材は、一応当たり障りのない内容――と言ったところであろうか。若戸が赤ワインの注がれているワイングラスを右手に持って、さりげない感じで、真正面で向かい合う美奈子に尋ねていた。

 

「ええ、それは……うちがまだ、五歳のときやったかいなぁ?」

 

 美奈子も社交辞令風に微笑みを浮かべながら、丁寧な姿勢で若戸に答えようとしていた。

 

 孝治は小声でつぶやいた。

 

「やっぱ会話がぎこちなかばい☻ 美奈子さんかて緊張することってあるっちゃねぇ☻」

 

 すぐに千秋が、そっとささやき返してくれた。

 

「お見合い話があの若戸はんやとわかたっとき、師匠が千秋と千夏に教えてくれたんやけどなぁ、師匠、あの若戸はんを昔、命を助けたときから、なんや意識しとったかもしれん……っちゅうことやそうやで♠ これって千秋も今回、初めて知った話なんやけどなぁ✍」

 

「なんか昔話にようあるような、伝説の恋愛小説みたいっちゃねぇ……そうけぇ、やけんそんときに好きになってもうて、若戸さんが成長した美奈子さんにプロポーズっちゅうことやろっかねぇ☻」

 

 なんとなくだが孝治は、話にスクープの要素を感じてきた。それでも自分の前に並んでいる料理の数々には、一切の手抜かりなし。すでにほとんど口を付けていたりして。


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