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『剣遊記13』

第三章 空のバカンスは嵐を呼んだ。

     (11)

 主要メンバーも、これにてだいたいそろった格好。ただちにお見合いの始まり――とはならなかった。まだまだ開始の時刻には、時間がたくさん余っていた。

 

 そこで美奈子と友美、秋恵と双子姉妹は、若戸から先に入浴を勧められた。

 

 巨大飛行船の内部には、けっこう広い大型浴場も用意されていたのだ。

 

「わたし……こげな空ん上でお風呂に入れるなんち、考えたこともなかっちゃし、なんち言うたかて生まれて初めてっちゃねぇ♋」

 

 肩まで湯船に浸かりながら、頭に青いタオルを載せている友美がささやいた。

 

「先輩、あたしもですよぉ★」

 

 秋恵は赤いタオルを頭に載せていた。

 

 この御両人の左隣りには、幽霊の涼子が付き添っていた。

 

『あたしかておんなじ気分ちゃよ☻ ほんなこつ成仏せんかったら、まだまだいろんな体験ができるもんちゃねぇ☻』

 

 無論端から見れば、ここは友美と秋恵のふたりだけで、雑談をしているような感じであろう。美奈子はそのような感じで楽しんでいる友美たちには、これまたあまり構わないでいるご様子。浴場にあるシャワーに立って、長い黒髪を洗っていた。

 

 そのうしろ姿を見ても、抜群なプロポーション性は友美も思わず、羨望の思いに浸れるほどだった。

 

「美奈子さん、ほんなこつええ体しとうっちゃよ♡ さっき前から見たとやけど、やっぱ胸が大きかぁ〜〜って、並みに言えるもんやなか、まさにダイナマイトボディ、あるいはわがままボディって言うとやろっか?」

 

『あたしももういっぺん見てこ♐』

 

 涼子もすぐに、お湯の中から波紋も立てずに浮遊(なにしろ霊体だから)。美奈子の裸身を間近から、マジマジと眺め続けていた。

 

「わたしも近くで見てみたいっちゃけどぉ……きっとうらやまし過ぎて、孝治んときみたいに嫉妬の嵐になっちゃうばい☢」

 

 友美は自分の胸を、チラリと見下ろしながらでつぶやいた。

 

「先輩……そげなこつなかとですよ

 

 秋恵が元気付け(のつもりだろう、たぶん)で言ってくれるのだが、その本人の胸が、これまたけっこう大きな部類だったりする。

 

 友美は水面にうつむいて、苦笑気味の笑みを浮かべ返してやった。

 

「あ……ありがとっちゃね、秋恵ちゃん

 

 ついでだけどこのとき、友美は周りも見回してみた。千秋と千夏の姉妹が、真っ裸ではしゃいでいた。

 

「こらぁ、千夏ぅ! そのアヒルちゃん、千秋にも貸してくれてもええやろう!」

 

「きゃっきゃっ☀☀ 千秋ちゃんもぉ、アヒルちゃんが可愛いさんですうぅぅぅ☀☀ でも駄目なんですうぅぅぅ♠♣♦ これぇヨーゼフちゃんもぉ喜んでますですうぅぅぅ♡♡♡」

 

 ワンワンと、ダックス・フンド型ケルベロスのヨーゼフも、完全に本心からうれしがっている感じで、しっぽを左右にパタパタと振っていた。

 

「千夏ちゃん、この飛行船にヨーゼフちゃんが乗っとったけ、でたんうれしいみたいっちゃねぇ

 

 友美はしみじみとつぶやいた。その言葉どおり、千夏はヨーゼフを、なんと浴場まで連れてきているのだ。またヨーゼフもヨーゼフで、前に一回会っただけの千夏に、異常と言いたいほどになつきまくっていた。

 

 友美はまたも、しみじみとつぶやいた。

 

「でもなして、千夏ちゃんってあげん動物とすぐに仲良うなれるとやろっかねぇ?」

 

それはそうとして、千秋と千夏、ふたりして幼児体型(双子なのだから、ある意味当然なのだが)なのは、もはや不問の域にしておく。それよりもヨーゼフまでもバシャバシャと湯船で泳がせながらで、千秋も千夏といっしょにはしゃいでいた。いつもはけっこう大人ぶっている双子の姉のほうも、初めての空での入浴体験で、気分が子供に戻っているのだろうか。

 

「千夏ぅ! 千秋にもヨーゼフと遊ばせてえなぁ☹ 千夏ばっかしヨーゼフと遊んで、ちとズルいんちゃいまんのかぁ☹☹」

 

「ああん! ヨーゼフちゃんはぁ、千夏ちゃんとぉ大の大の仲良しさんなんですうぅぅぅ☺☺☺

 

 てな具合で。

 

 ここで友美は、ふと思い出した。

 

「そげん言うたら孝治も風呂に入っとうはずっちゃけど、まさか男湯に入っとんやなかろうねぇ?」


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