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『剣遊記13』

第三章 空のバカンスは嵐を呼んだ。

     (1)

「友美ぃ、おれはこげな格好でよかとやぁ?」

 

 孝治は朝から三面鏡の前に立ち、自分の服装(いつもの軽装鎧姿)を頭のてっぺんから足のつま先まで、我ながらのしつこいチェックを繰り返していた。

 

「そんセリフ……ひいふうみいとぉ、もう十四回目ばい☢」

 

 戻ってくる友美の返事も、『もうええ加減にせんね☠』の色でにじみきっていた。

 

『孝治はいつもの戦士姿なんやけ、そげん格好に気ぃつかわんでもええんとちゃう?』

 

 鏡の右横にある丸椅子に座っている涼子が、アクビを噛み殺しそうな顔でささやいた。

 

「涼子に言われとうなかっちゃよ♨」

 

『まっ、それもそうっちゃね☻ そげん言われて当然ちゃね

 

 孝治のムカつきに、涼子も苦笑の顔で、両手の手の平を両肩の脇で上向きにしてくれた。いわゆる『しょんなかねぇ☻』のポーズ。それもまさに当然。服装の是非など、年中真っ裸でほとんど裸族の涼子に、とやかく言う資格などないだろう。その付近の事情は、本人も承知のうえみたいだ。

 

「じゃあ、そろそろ行くっちゃね✈」

 

 端で孝治と涼子の漫才を見ていた友美が、腰を下ろしていたベッドから、スクッと立ち上がった。ちなみに友美自身の服装も、ふだんから着用している軽装甲の鎧姿。つまりが孝治と同じ、ふつうの格好なのだ。

 

 早い話。元男である孝治のほうこそ、なぜか正装に時間をかけたわけ。友美など『いつもんどおりで良かと☆』とばかり、一秒で外出着を決めた速攻ぶりなのに。

 

 なお、三人が現在いる場所は、未来亭の孝治の部屋。もうすぐ新入りの秋恵が迎えに来る段取りとなっていた――と思っていたら来た。

 

「先輩たち、そろそろ店長たちも出発しますばい

 

 ガチャッとドアが開かれ、秋恵が孝治たちの部屋に顔を出した。ついでながら彼女の服装も、ふだんと変わらない盗賊仕様となっていた。


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