『剣遊記13』 第二章 記憶の底の訪問者。 (14) 「はい、なんでおます?」
美奈子はふつうに振り返った。すでに若戸が昔会ったことのあるなつかしい人物だと言うことは、きれいに冷めているのだろうか。しかし美奈子とは真逆で、若戸の態度は、いかにも真剣そうでいた。
「初めに自己紹介をしたはずです✍ 僕はあなたに恩返しをしないといけないと……そしてきょうまた新たに、我が若戸家のピンチを救っていただきました⚠ しかも、あなたの霊に対してまで注げる愛情の深さに、不肖ながらこの若戸俊二郎、大いに感動もいたしました☆ この度重なる恩に僕は、全身全霊を捧げてお返しをしないといけません♐」
「なんか話がオーバーになってきたっちゃねぇ☻」
そばで聞いている孝治は、なんだか腹の底からの苦笑気分が、とても抑えられない気持ちになった。
先ほど耳に入れた話では、この若戸と美奈子の間には、過去になんらかの出来事があったらしい。だけど孝治も知っている美奈子の性格からして、それはそれ、これはこれ――で、簡単に分離できるような類の話であろう。
果たして若戸の真剣ぶりが、美奈子にどこまで通用するのかどうか。ある意味これは見ものと言えた。
だが、事態は孝治の予想を遥かに超えていた。
「美奈子さん……すでにお宅の黒崎店長から聞いているとは思いますけど、僕が今度の見合いの相手なんです✌ どうか僕と結婚してください!」
この瞬間、孝治はもちろんであるが、この場にいる全員の思考が、一時中断の様相となった。
その筆頭は、美奈子であった。
「…………」
黒い瞳を思いっきりに真ん丸として。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |