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『剣遊記\』

第七章 そして海は静かになった。

     (9)

 帰りの道のりは、行きの行程をそのまま逆で行くだけ。高松港から遊覧船に乗って松山港まで。そこから定期連絡船に乗り換える海の道筋である。

 

 老漁夫の見送りを受けながら、遊覧船に乗り込む一行。帆柱と孝治と友美に、おまけの涼子。それから正男と静香と美奈子と千秋と千夏。さらに桂と永二郎のふたりも、もちろんいっしょ。要するに、未来亭を旅立ったメンバーがそのまんま。もしかすると、この顔ぶれにもうひとり加わっていたかもしれないが、巨体ながら神出鬼没で有名な男はとっくに――と言うより、再び行方不明となっていた。

 

 ちなみに永二郎は、第五開陽丸の仲間たちの救出を果たしたものの、肝心の船が沈んでいるので、当分仕事はお休みの状態。船員たちは衛兵隊での事情説明があるので現地に残ったが、永二郎だけは船長の粋な計らいで、有り難くも長い休日を頂いていた。

 

 桂といっしょに、水要らずで過ごせる日々を。

 

「しっかし、ええ船長やねぇ☆ そりゃ海賊ばやっつけた手柄もあろうちゃけど、そのお礼に一ヶ月も休暇ばくれるなんちねぇ♡」

 

 船上の人となった孝治は、甲板で仲睦まじくしている桂と永二郎を前にして、冷やかし気分で声をかけてやった。

 

「ま、まあ……それもあるだからよー☻」

 

 永二郎が顔を赤らめながら、話をなんとなく真面目な方向へ持って行こうとしていた。

 

「一ヶ月もあしばな休みってことはさー……船長はこん間にしゃにでーじな船をなくしとうからさー、新しい船を調達でちばらんといけんってことなんさー☹ やけんそれば考えたらさー、おれだけ遊ぶっちゅうのは、はじかさーことやけさー☘」

 

 すると今度は桂が、永二郎の左手をつかんですねていた。

 

「いやっ! 永二郎さん、今回ばかりは仕事んこつがいに忘れて、あたしといっしょにいてほしいんやが……お願い!」

 

「や、やしがぁ……☁」

 

 恋人からのおねだりに、永二郎はかなりお困りのご様子。だけどこの結論は、孝治にはすでに見えていた。

 

「こん勝負、桂ちゃんの勝ちっちゃね♡ 永二郎も観念して、彼女孝行ば頑張ってや♡」


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