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『剣遊記\』

第七章 そして海は静かになった。

     (10)

 孝治は永二郎とに笑顔を残し、それから自分の居場所を変えた。すると変えた先でも、なにやらお困りが起こっている様子でいた。

 

 魚町からまた逃げられてしょげかえっている静香を、正男と友美が一生懸命になぐさめようとしている現場であった。

 

「どげんね? 静香ちゃんの機嫌ば治ったと?」

 

 本人(静香)に直接訊けるはずがないので、孝治はそばで見ている涼子に尋ねてみた。

 

 涼子は頭を横に振るだけだった。

 

『てんで駄目っちゃね☂ だって、魚町先輩も罪作りな男っちゃねぇ〜〜☠ こげな可愛い恋人ば置いて、いつもひとりでどっかに行っちゃうとやけ☢』

 

「それが先輩の生き様なんよねぇ〜〜☂」

 

 でもって後始末ば任されんのは、けっきょくおれたちと、孝治は重いため息を吐いた。それと同時に、静香が突然大きな声を張り上げた。

 

「進一さぁ! 覚えとくだがねぇ! 進一さぁが日本のどこさだ逃げただにぃ、けっきょくけえる場所はあたししかおらんのだべぇ! あたしはどこさだって追い駆けるんだがらぁ!」

 

「こ、こら、静香! 声が大きかっちゃ!」

 

 他の船客たちの視線が、一斉にこちらへと集中。正男が慌てて、静香を鎮めようとした。

 

 とにかくこんな調子でいるものだから、友美もため息混じりで、孝治に愚痴をこぼしてくれた。

 

「さっきからこげん繰り返しなんよねぇ☢ なんとかならんとやろっか?」

 

「なんとかっち……言われたかてねぇ……☁☁☁」

 

 魚町先輩の優柔不断が治らない限り、孝治も静香のお守りの苦労からは、当分逃れられそうにはなかった。


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