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『剣遊記\』

第七章 そして海は静かになった。

     (6)

 かなり邪{よこし}まではあったが、美奈子たちの尽力(?)で、永二郎は第五開陽丸の仲間たちと、再会を果たせる僥倖となったわけ。

 

「船長、ご無事で良かっただわけさー!」

 

「永二郎もようけ、こげーなとこまで来てくれたじゃのう☀☺」

 

 船長はやはり、美奈子を宝の在り処まで案内した男だった。

 

「しゃに早よう、ここにりっかするべきやったのにさー、遅くなっておれははじかさー☂」

 

「そうに自分を責めんでええじゃろー☻ 実はここの待遇じゃて、そう悪いもんじゃなかったけぇのー☺ 飯も海の幸が多かったもんじゃけー☆」

 

 船長が余裕の笑みで、感涙で奮えている永二郎の右肩を、左手でポンポンと軽く叩いた。これにて永二郎が船の中で、いかに子供扱いをされているかが、よくわかった。

 

『いやっちゃねぇ☹ あげなこつ言うたんじゃ、せっかくの感動の場面がシラけちゃうばい☢』

 

 涼子が期待していたほどではなかったらしい海の男たちの再会を、冷めた目線で見つめていた。その右横で友美は、なぜか桂の背中を、うしろから後押ししていた。

 

「ほらぁ、桂ったらぁ、もっと前に出るっちゃよぉ♥」

 

『あら? 友美ちゃん、なんしよんね?』

 

 涼子の『?』に、友美はニコッと微笑んで返した。それからさらに力を込めた感じで、桂をみんなの前に押し出そうとする。

 

「ちょ、ちょっとぉ、友美ちゃん、やめてつかーさいよぉ⚠」

 

 すっかりおろおろ気味である桂に――いや、この場の一同に向かって、友美がズバリと言い切った。

 

「皆さぁーーん! ここにおる桂ちゃんがぁ、永二郎くんの恋人なんでぇ〜〜っす♡」

 

「ええっ! こんないなげなとこで言わんでもええぞなもしぃ〜〜!」

 

「あ、あのだばぁ……⛐」

 

 桂と永二郎の顔がたちまち赤くなった現場の状況は、この際言うまでもなし。

 

「さっ♡ 行くっちゃよ♡」

 

「あん!」

 

 友美から最後のひと押しをポンとされ、桂が永二郎の胸に、キュンと飛び込む格好になった。そのとたん、仲間の船員たちから、やんややんやの拍手喝采と囃しの口笛がヒューヒューと湧き起った。この騒ぎはもはや、第五開陽丸の船員もその他の船の船員も関係なかった。

 

 海賊からようやく解放された喜びに加え、突如発覚した若い仲間の交際相手。これが一気に盛り上がらないはずがない。

 

 後日、海賊の根城とされ、瀬戸内海を恐怖の坩堝{るつぼ}に陥れた鬼ヶ島は以来、若い男女の恋のデートスポットとして、一躍脚光を浴びる場所となったわけ。

 

『友美ちゃんもやるっちゃねぇ〜〜☆ こげな思いきったやり方で、ふたりばみんなに紹介しちゃうんやけねぇ⛄』

 

 涼子がすっかり盛り上がりの場となっている海岸を、岩場の上に座って眺めつつ、誰にも聞こえない独り言をつぶやいていた。

 

『あたしがこげな風にみんなから祝福されるなんち……やっぱあたしが生まれ変わってからやろっかねぇ……⛵⛴』

 

 岡山、香川の両海上衛兵隊が、今ごろになってのこのこと船団を組んで島に到着した時刻は、そんな最中でのことだった。


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