『剣遊記\』 第七章 そして海は静かになった。 (3) 海賊たちが完全におとなしくなったところで、あとに残った問題が、ただひとつだけあった。
「で、こいつらどげんやって、岡山か香川の衛兵隊に連れてけばよかやろ……やけどねぇ……さて、どげんしたもんやろっか?」
「ほんなこつですよねぇ☹ どげんしましょ?」
帆柱と孝治の悩みは、ズバリこれ――海賊たちの連行方法にあった。
現在、友美の『睡眠』魔術で眠らせているとはいえ、ざっと数えて五十人近い海賊たちの団体さんなのだ。これをいったいどうやって、鬼ヶ島から本土まで運べば良いものやら。彼らの持ち船はすべて、永二郎と桂のふたりがコテンパンに破壊済みであるのだから。
「先ぱぁーーい!」
そんな風で輸送方法について悩んでいる帆柱と孝治の元へ、正男が静香を伴い、洞窟の奥から走って出てきた。
正男もすでに狼から人へと戻り、真新しい衣服を着用していた。これもたぶん、海賊から新品の服を取り上げた物であろう。だけど、それはこの際、どうでもけっこう。問題は静香がなぜか、泣きベソをかいていることにあった。
「あれぇ? なして静香ちゃんが泣きようとぉ?」
孝治は不思議な気分で尋ねてみた。これに正男が、心底から困っているような顔で答えてくれた。
「先ぱぁ〜〜い☂ ……それに孝治も聞いちゃってや☹ 実は魚町先輩がこん島に現われたらしいんやけど、大乱戦ばしよう間にどっか行ってしもうたらしゅうて……先輩たちは魚町先輩に会いませんでしたかぁ?」
「うわっち! 魚町先輩が来とったとぉ?」
「それはほんなこつね?」
孝治も帆柱も、魚町が来ていた話は、完全に寝耳に水だった。このなにも知らなかったふたり(帆柱と孝治)がお互いに顔を見合わせたとたん、静香がついに大きな声で、大号泣を始めてしまった。
「あたしっておやげないんだにぃ☂ 進一さぁったらぁ、せっかく海賊退治さおいたして、あたしもかっこぶとこさ見せただにぃ、進一さぁったら 、いつん間にかさいなくなったんだんべぇ〜〜☂☃」
「うわっちぃ〜〜っ! 魚町先輩またっちゃよぉ〜〜☠」
魚町の、持ち前の巨体に似合わない神出鬼没ぼり。さらに見事なる逃亡者としての腕前。孝治は砂浜にて両手で頭をかかえ、苦虫を二億匹(根拠なし)近く噛み潰したような気持ちになった。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |