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『剣遊記\』

第七章 そして海は静かになった。

     (11)

 また、遊覧船の別の場所では、美奈子と千秋と千夏の三人も、やはり海を眺めながらでの愚痴をブツブツと続けていた。

 

「師匠、今回もあんまし大儲けでけへんかったなぁ☹」

 

「そうどすなぁ☹ それよかなんや、今回は孝治はんの口車に、あんじょうよう乗せられはった格好みたいどすわぁ……♨」

 

 千秋に応える美奈子の声音は、これまたやはりで、ため息混じりになっていた。

 

 島で海賊からちょろまかしたお宝も、けっきょくすべて衛兵隊によって没収。結果、あとで三人(美奈子、千秋、千夏)の手に入るモノは、いつもどおりである正規の報酬だけとなったわけ。

 

 もちろんそのような、つまらない一定の収入で満足するような三人ではなかった。しかし現在のところ、精も根も尽き果てましたわ――といった感じの現況なのだ。

 

「未来亭に帰ったらまたコブラにでもなって、孝治はんのお部屋を訪問させてもらいますわ♨ そうでもせえへんと、ほんに腹の虫がどだい収まりまへんさかいに⚖」

 

「うわぁぁぁ♡♡ 千夏ちゃんもぉ、それとってもぉとってもぉ、お楽しみさんですうぅぅぅ♡♡♡♡」

 

 美奈子の恐るべきつぶやきを耳に入れ、千夏が無邪気にはしゃいでいた。この千夏のみは師匠と姉の愚痴にも、まったく無縁の存在でいるようだ。


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