前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記\』

第七章 そして海は静かになった。

     (1)

「けっきょく永二郎に美味しいとこ、全部持ってかれちゃったみたいっちゃねぇ〜〜☻」

 

 浜辺でオロオロしていただけで、早い話がなんの手出しもできなかった孝治。それでも海賊救助には活躍したけれど。とにかくため息混じりで、帆柱先輩を相手につぶやいた。

 

 ところが、もともと鷹揚な性格っぽい孝治の先輩は、そのような些細な出来事(?)を特に気にする様子など、まさに微塵もカケラも見せなかった。

 

「まっ、よかっちゃろ☺ そもそも今回の主役は永二郎であって、俺たちはただの助っ人なんやけな☀」

 

 などと豪快に笑い飛ばすだけ。そこを今も海面に肩まで浸かったままでいる桂が、ひと言付け加えた。

 

「永二郎さんもがいに活躍したけんど、あたしもおるんじゃけんね♡」

 

「おっと、すまんすまん♪ 主役がもうひとりおったばい☻」

 

 これもふふんと鼻で笑いながら、発言の一部を訂正。どこまでも鷹揚な性格のケンタウロスであった。

 

 そこへシー・サーペントとの死闘に勝利を果たした永二郎が、堂々と浜辺に凱旋。その巨体を砂浜に乗り上げさせた。

 

「おっ♡ 今回の主役で英雄が帰ってきたっちゃね♡」

 

 孝治もすぐに、永二郎の元へと駆け寄った。

 

 陸に上がりさえすれば、あとは体内の変身回路が自動的に作動を開始。ほんの五分ぐらいのわずかな時間で、永二郎はシャチから人間の姿に還元された。そうなると当然、着る物が必要となるわけ。

 

「間に合わせやけど、これでよかっちゃね?」

 

「ありがとう! これでいっぺーじょーとーさー☆」

 

 孝治から赤い縞模様のTシャツと青いズボンを受け取り、永二郎が急いでそれを着用した。その上下ともに海賊が着ていた服を、孝治は無理矢理彼らから取り上げたのだ。

 

「そんじゃ、桂ちゃんもね☺」

 

「うん♡」

 

 人魚から人の姿に戻る桂も、その辺の事情は永二郎と同じ。でもこちらは女の子なので、友美が桂を岩場の裏側にまで連れていった。

 

「見たら駄目やけね⛔」

 

 友美が孝治と正男に一喝。また、桂の服もやはり永二郎の場合と同じで、海賊から強制徴収をした逸品である。だから色は白地のTシャツなのだが、完全に男の物を使っていた。そのためか桂には、少々ブカブカ気味でもあった。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system