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『剣遊記 番外編Y』

第二章 新怪人続々登場。

     (5)

 そんな異様極まる空気を、直感で感じ取ったのだろう。そこはまさに、勘が発達していると評判の黒崎であった(まだこの場にいた。ついでに日明もいっしょ)。

 

「そ、そうだがや☆ この徹哉君もこの世界の研究をしているから、今度盗賊の仕事に、彼も連れてってくれたまえ。これは僕からの依頼ってことでね」

 

 ここでうまく――と言うべきか、話の方向を別方面へと切り替えてくれた。

 

「はい、わかりました……☁」

 

「は、はい……☁」

 

 律子も秋恵も、なかば条件反射的でうなずきを返した。これにて徹哉のコーヒーの件は、一時棚上げ。

 

「しかるに黒崎クン⚧」

 

 ところがいまだ、場の雰囲気を把握と言うか、まるで認識していないようだった。日明がまたもや、よけいなセリフを連発してくれた。

 

「ごぶれいする前にどうぞこうぞ待つがねぇ☀ こちらにあすんどるおじゃうさんの頭の色なんだがにぃ、どうやら染めもせんでこのやうなグリーンの色をしとるとは、どえりゃー珍しいがねぇ♐ これもぜひ、うわたくしの研究対象にしたーと思うんだぎゃ、差し支えなけやいかがなもんだぎゃあ⛑⚠ うわたくしの推理では、たぶんきっとまっかしけな植物のエキスがぶちゃけとうと思うんだがねぇ✌✍」

 

「け、研究対象ってぇ!」

 

 再びまるで、古傷に障るような、不届きで無神経な発言。これを耳にした律子は、思わず店内で、その問題である緑の髪をバッと天井に向けて逆立てた。ついでに申せば、律子は内心で驚いてもいた。

 

(この怪人……やなか、日明っちゅう人、けっこう勘がええみたいばい♋ 言うてもなかっちゅうのに、わたしが植物と合体しとるっちゅうことに気づくなんち……!)

 

 これも新たな問題発生――であるが、先ほどからふだんの冷静ぶりをやや欠いている黒崎が、その傾向にますますの拍車をかけていた。

 

「ま、まあ、彼女の髪の件は、いつか僕からちゃんと説明するがや。それより君は、早くこの世界を見物したいんだろ。すぐに熊手君に馬車を用意させるから……では律子君に秋恵君、あとをよろしく!」

 

 まさしく早口で一気にまくし立てると、黒崎はバタバタと今度こそ、この場から本当に退場していった。妄言を吐き続ける怪人――日明の右手をガシッと左手で握り、強引に引っ張るような格好で。

 

「むぁてむぁて! うわたくしはまだまだ、このおじゃうさん方に質問してえことがめちゃんこたくさんあるんだがにぃ! これもうわたくしの探求心のまっとまっと為せるカルマの賜物よぉ! めちゃんこいらんことなんだがや、『カルマ』とは漢字で『業』とも書くんだぎゃあ✍ このぐりゃーの大知識ぐりゃー知っておいて損はにゃーがねぇ☻ テストにもきっと出るだがやぁ✌ ぬぁにぃ! 諸君らはもう知っておるがねぇ!」

 

「だからぁ、誰に向かって言ってるんだがにぃ」

 

 さらに妄言を吐き続ける怪人――日明の右手を握って強引に引っ張りながら、なおも話の相手が一応できるところなど、やはりさすがは敏腕店長というべきだろうか。

 

 ちょっと違うか。

 

 お終いに、一部(?)でこれだけの騒ぎが起こっていながら、未来亭の営業自体はスムーズに進んでいた(ちょっと驚いたぐらいで)。


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