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『剣遊記 番外編Y』

第二章 新怪人続々登場。

     (3)

 律子はもちろん、すぐに店長に気がついた。それから続いて出るセリフは、当然的にこれだった。

 

「こん人たち……いったいどなたさんなんですか?」

 

 自分の瞳の前で、相変わらず居座っているふたりの男性――黒マントの怪人と徹哉について、律子は改めての気持ちで、黒崎に尋ねてみた。するとすぐに店長も、女盗賊の気持ちを察知してくれたようだ。その辺りの人の内心を探るところが、とにかくうまい黒崎店長なのだ。

 

「ああ、みんなきょう初めてお会いする人たちばかりだったよね。紹介するがや。こちらにおられるのは僕の古くからの友人で」

 

 黒崎が先に紹介を行なった者は、黒いマントの怪人のほう。

 

「日明春城さんと言うんだがや。彼は科学者で、特にこの世界の風俗や風習を研究するために、僕の未来亭を訪問されたんだがね」

 

「この世界の風俗と風習ですけぇ?」

 

 ほとんど理解のできない説明を聞いて、律子の頭の上に、何個もの『?』マークが旋回した。

 

 しかし元より、この日明なる怪人物。律子のとまどいなど、それこそ初めっから、まったく関心がないようだ。

 

「うおほん☆ ただいま御紹介に預かったこのうわたくしこそぉ! 世紀の天才大科学者ぁーーっ! そのIQもなんと、八百二十はあろうがあ世界一の秀才であーり! また進歩と発展の扇動者! このうわたくしの天才秀才ガリ勉君こそが、全人類と全魚類を救済するんだがやぁーーっ!」

 

 などなど、律子たちふたりと徹哉、それに黒崎を前にして、堂々とした自己宣伝の大絶叫。店内の給仕係と一般のお客さんも全員、怪人物――日明に大注目をしていた。おまけで全員に共通している現象は、すべてが呆気に取られまくり、目が点になりきっているという状態。

 

「あいきゅうって……なに?」

 

 そもそもの言葉の意味が、律子にはまったくわからなかった(恐らく彼女だけではないだろう)。だけどたぶん、この場でこの怪人が答えてくれるとは、こちらも到底考えられなかった。そこで多少矛先を変え、別方面からごく一般的なツッコミを、律子は日明に入れてみた。

 

「……そん前にぃ……天才っちゅうたり秀才っちゅうたり……要するに、なんなんですけ?」

 

 しかしこれにも、まるで動じる様子はなし。

 

「ぬははははぁーーっ☻ このうわたしくについて、今説明してやるがねぇーーっ!」

 

律子の問いは無視されたまま。どうやら、いったんしゃべり始めたら日明は、瞬く間に暴走を開始する性癖であるらしい。

 

「むおほん! ただいまこのうわたくしを御紹介あそばされた中にがんねぇ、この世界の風俗と風習とこの黒崎クンがこそばゆくおっしゃってぶちゃけてくれたのだが、無論このうわたくしの研究の及ぶ範疇は、ええころかげん、それだけではないんだぎゃーーっ! 胃大……いやいや偉大なるグレートなるこのうわたくしがまっとええ科学と魔術の際どい密接なる関係をあんばよう大いに研究し探究しとるところが、このうわたくしの使命であるてえ、全ワールドがこのうわたくしにようけい期待をおくれるのであるんだぎゃねぇ☀ これこそ全世界初のおうじょうこく(名古屋弁で『苦労する』)ほどの総合的大研究! 地球で一番☆ きっとなら宇宙のふちっこやったら、二番か三番だったりして☻ くぉらぁーーっ! このWEBをこそばいいほど見ようそこのおまえんたあ! おまえやおまえんたあ! このうわたくしの歴史的大演説を飛ばし読みするではぬぁーーい!」

 

 ――と、これではますます、言っている意味も理解も解析不可能である。


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