『剣遊記 番外編Y』 第二章 新怪人続々登場。 (2) 「せ……先輩、場所ば変わりませんけ?」
先輩――律子の剣幕に、危機感を抱いた理由もあったようだ。しかしそれよりも、怪人――黒マントの男に対し、『相手にせんほうがよかばい☢』を感じたらしい秋恵が、しきりにこの場から離れようと、律子に離席をうながした。すでに一週間以上も行動をともにしているので、そこのところの状況分析は、お互いに承知済みとなっていた。
「そ、そうばいね……そげんしましょ☠」
ムカムカ気分で、今にも胸がはち切れんばかりの律子であった。だけどここは、義理としがらみがたくさんある、未来亭の店内。変な騒ぎを起こして、黒崎店長に迷惑をかけるわけにはいかない。そこで危うい雰囲気の前兆から逃れるため、後輩――秋恵の進言に従って、律子はテーブルから離れる決心をした。
そのときになって――だった。
「博士、コンナ所ニオラレタンダナ」
新たに現われた者が、またもや例によって、青い背広姿に赤いネクタイの青年。
「あら? あなた……☁」
律子は青年について、特にくわしいわけではなかった。だけど一応、話には聞いていた。
「確か……夜越徹哉くん……とか言うとったばいねぇ……孝治くんから前に話ば聞いたことがあったばってん✍」
「ソウナンダナ。コレハ光栄ナンダナ」
徹哉のほうは、それなりに感謝の言葉を述べているようだった。ただそれが、丸っきり表情に表されていないのだ。
(なるほどばいねぇ〜〜☹)
律子は内心で、徹哉について酷評した。
(孝治くんがすっごいポーカーフェイスな野郎っち、前に言いよったばいねぇ⛐ しゃべり方もなんか、なんやかや固いのか訛ってんのか、いっちょもわからん感じやしねぇ☢⚠)
このような感じで相手の第一印象を見ておきながら、律子自身は頭の中身を、一切顔には出さないようにしていた。
(これまたなんやかやんときに、変なんがかたるみたいに出てくるもんばいねぇ☠ きょうはそげな変な連中の特売日なんやろっか?)
「先輩、早くぅ……☂」
「あっ、ごめんばい♐」
ここで秋恵から急き立てられなかったら、ムカつきよりもむしろ興味本位と好奇心で、律子はこのままテーブルに居続ける気に、心境が変わったかも。その気持ちを背中から押すような感じで、同じテーブルにさらなる登場人物――店長の黒崎までがお出ましとなった。これによって律子と秋恵は、完全に席を離れるタイミングを失った。
「やあ、君たちも食事中だったがや」
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