『剣遊記 番外編Y』 第二章 新怪人続々登場。 (1) 話の進行がややこしくなるけど、冒頭の一件から、また次の日となった。律子と秋恵のふたりは仲良く、未来亭の酒場で朝食を取っていた。
そこへ突然現われた者が、例によって黒マントに牛乳瓶メガネの変人=怪人――いやいやここまで異様ぶりが極まれば、これはもう、死○博士と表現しても良いかもしれない。一応『怪人』で続けるけど。
「そこのあすんどるおじゃうさん方、ここに同席させておくれてええがね?」
「はあ?」
無論の話、そこは初対面同士である。
「ど、どうぞ、お座りになってくださいませ☢」
唐突である怪人物の出現で、律子の口調はもろ、台本棒読み調のカチカチ言葉になっていた。だけど怪人のほうは、律子と秋恵の瞳が点状態など、まるでわかっていない感じ。
「ぬぁーるほどだがねぇ☆ くぉの世界の先住民諸君は、なかなかにセンスがめちゃんこアカ抜けしておるがんねぇ☆☆ こぎゃーして御拝見するかりゃーには、なかなかのべっぴんさんぞろいだぎゃあ☀☀」
とてもではないが、かなりにブッ飛んだ感じである、黒マント怪人の変人ぶり。
「あ、あんた……なんば言いよっと?」
律子は自分の瞳の点化が、ますます加速されるような気になった。ついでに怪人のセリフにも、律子は大きな関心を抱き始めていた。
(おまけに思いっきりの名古屋弁ばい♋ 店長がよう言いようインチキ名古屋弁なんち、いっちょも問題にならんぐらいやなかね♋♋)
※作者からのお詫び。黒崎店長の名古屋弁はインチキなのですが、日明の言葉も実は怪しい状態なのをお許しください。
それでも彼女たちの呆気顔など、まったくのお構いなし。
「ではではでは、同席させてもらうんだがねぇ☀♡♡」
律子と秋恵のはっきりとした承諾を得ないうちから、黒マントが同じテーブルの向かい側の椅子に、勝手にドカッと腰を下ろしてくれた。
「よっこらせっと⚐⚑」
そんな親父言葉が自然と口から洩れるところを見るからに、この男――と言うよりも怪人。けっこう御年齢を召しているに違いない。その証拠でもないだろうけど、前髪がかなり後退している。
(なんちゅうか、自分ばっかペチャクチャしゃべりよう感じの人ばってん、こげなん無視するんが、いっちゃんよかばいねぇ☢ まあ、無駄な抵抗っち思うとばってん☠)
焼きたてのトーストにマーガリンを塗りながら、律子は平静な仕草を貫きつつ、男の風貌をジッと観察してみた。かと思えば怪人は怪人のほうで、これまた自分の目の前に並んでいるふたりの女性(律子と秋恵)を、失礼にもジロジロと眺め回していた。
ニヤニヤと気色の悪い笑みまでも浮かべて。
それから律子の考えるとおり、さっそくペチャクチャと口を快調に飛ばしてくれた。
「ふふぅ〜む、グリーン色をしたる頭に目ん玉の色までグリーンとは、こりゃーまた面妖……いらんことごぶれい☻ とにかく妖美なる乙女だがねぇ☛ このうわたくしの世界にもファッションなんかでがや、頭の色を染めたる奥方はあふらかすほど多いだぎゃ、それぎゃずっこいメークなんかではのーて、元からのカラーでこぎゃーな色をしとんだぎゃ、どえらいこれこそ、魔術万能の異世界ファンタジーだぎゃのう☻ ぬほほほほほ☆★☆」
はっきりと申して、なにを言っているのか、全然わからない。それでも腹が立つ話し方だけは間違いなし。
「あんたっ! わたしら馬鹿にしとんね!♨」
律子はバシッと、両手の指を広げてテーブルを叩き、ついでに椅子からバッと立ち上がった。
「わたしが好きで、髪ん色ばぐりん……やのうて、緑にしとうっち思いよっとね!」
本心ではけっこう気に入っている髪の色だが、こうまであからさまに言われては、やはり超立腹ものとなる。
確かに髪が黒から緑に変色した理由は、忌まわしき魔術の呪いが原因。そんな悲しき過去の因縁を振り払い、無理にでもこんな自分を好きになろうと努力に努力を積み重ねてきた結果、こうして人前でも堂々と、緑の髪を、むしろ自慢ができるようになるまで、心境を変化させてきたのだ。
それがこのような怪人親父から無神経丸出しで言われると、正直どうしても、ムカつきが前面に出る気持ち。
『あんたなんかにわたしん苦労がわかってたまるけ!』ってな具合で。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |