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『剣遊記 番外編Y』

第二章 新怪人続々登場。

     (10)

 以前に律子も聞いていた話だが、この城は今からおよそ五百年前――あるいはもっと昔に建造されていたのかもしれない、地域防衛用の砦であったと言う。もちろん現在は、とっくにその役目を終えて廃城となり、この地に今でも残っているのだ。

 

 だからと言って、世界遺産の認定には、まったく程遠いシロモノではあるが。

 

 さらに無論、本来戦争用である砦に、宝物などあるはずなし。まあ一部では、奥の鍾乳洞に隠し財宝が存在するとも噂されているのだが。

 

「まあね、もちろんそげなん、一種の都市伝説みたいなもんばい✍ ついでやけどもうひとつ、ここには大昔に造られたマミー{ミイラ怪人}が眠っとうっちゅう噂もあるったいね✍☻」

 

「ほ、ほんなこつですかぁ、先輩っ!」

 

「やけん、伝説っちゅうたら伝説ばい☎」

 

 ほとんど本気でビビり始めた後輩――秋恵の狼狽ぶりを見て、律子は内心、してやったばい――とほくそ笑んだ。

 

 律子たちのきょうの目的は、無論宝探しや怪物退治ではない。あくまでも盗賊としての初歩的な実地研修のみなのだ。そのつもりで今夜は、この城を野宿の場と決めていた。

 

「祭子は保育園で預かってもろうとうし、きょうは安心してこんふたりば、徹底教育できるばいねぇ☻」

 

 などと軽い気持ちのまま、律子は城への道のりを急いだ。

 

「あら?」

 

 その途中だった。律子は足元の地面に自分たち以外の、何人分もの靴跡が残っている状態に気がついた。

 

「なんね、先客がおったとやね☟」

 

 一瞬だが律子は、なんだか面倒臭い気持ちになった。その理由は盗賊の仁義として、先人には必ず挨拶が必要となるからだ。だけどもここは、もともとからして都市の近郊。冒険の練習だけではなく、遊びで城を訪れる一般の人たちも多かった。

 

 また先週の雨で、道がぬかるんでいる理由もあるのだろう。はっきりと視認できる靴跡の様子から、すべて大きめの男物のように見えていた。

 

「どうやらわたしらと同じ、盗賊修行のお仲間って感じばいね……それもヤローばっかやない☯ まあ、出くわしたらほんなこつ、挨拶のひとつでもしとかないけんばい⛴⛵」

 

 律子の判断は、この時点においてまで、一応正解と言えるだろう。ただ靴の履き主までは、推測不可能であるが。

 

 もちろんそこまで気にする律子ではない。

 

「さっ、城まで急ぐばい✈ 秋恵ちゃんも徹哉くんも頑張るったいね✊✋」

 

「はぁーーい♡」

 

「ハイ、ボクモ頑張ルンダナ」

 

 同じ返事の戻し方でありながら、盗賊志願少女のほうが、遥かに元気溌剌全開。どんなにビビっていても、立ち直りはあっと言う間の出来事のようだ。ところが彼女とは真逆でポーカーフェイス😑青年のほうは、相変わらずの超堅苦しいまんま。このようなふたりを教育する立場にある律子は、実はこのとき、まだまだとても楽観的な余裕の気持ちを持っていた。

 

「でたん対照的な弟子同士ばってん……まあ、なんとかなるったいねぇ♡☀」


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