『剣遊記]』 第六章 新人類の誕生。 (8) この予想もしなかった形勢逆転劇を、祭子は見逃さなかった。
『おいしゃん! あんたの相手はこっちやけねぇ!』
「なんやてぇーーっ!」
呼ばれた有混事が、馬鹿正直にも振り向いたとたんだった。強烈なる衝撃波が祭子の幻影から、突如発射された。
「うわっはあーーっ☠」
これをまともに喰らった有混事の小太りな体型が、まっすぐ後方に吹き飛ばされた。
そのままドカンッッと、後頭部を激しくうしろの壁に強打。有混事はあえなく失神した。
これで一応の勝利となったわけ。しかしまだまだ、祭子の戦いは続いていた。
『今度はそこのおいしゃん!』
「ぎくうっ!」
いきなり呼び止められた蟻連の足が、宴会場からこっそり逃げ始めていた地点でピタッと停止した。
これも小悪党の定番。完全に怖気づいた蟻連は、ひとりでこの場からの退散を図っていた。だが、祭子はそれをも見逃さなかったのだ。
ついでに振り返った蟻連の弁解も、完全に定番の域を出ない程度の戯言だった。
「わ、わしはなんも知らんけー! 全部ここに転がっとう有混事が勝手にしたんじゃけーのー! やけーわしはでーれー無実であり、むしろぼっけー被害者なんじゃあーーっ!」
そんな蟻連のすぐ右脇で、すでに怪物としての能力と破壊力を失っているホムンクルス・トレントが、ズガガガガアアアアアンと巨大な地響きを立てて倒壊。おまけに蟻連邸のおよそ半分を、道連れに崩壊させた。
「……わ、わしの城がぁ……☂」
この時点において、蟻連の神経回路が完全に破たんした。それからあとは即、気絶の世界への逃亡と相成った。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |