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『剣遊記]』

第六章 新人類の誕生。

     (6)

 とたんに宴会場の東側の壁をバキッ バキッ バキッと突き破り、薔薇とは違う種類の植物のつるが飛び出した。それもトゲこそ突き出ていないが、幹の太さが格段に違っていた。

 

 それはまるで、大木の枝葉が先ほどの律子と同様。触手のように蠢き、しかもさらなる恐るべき様相。幹には人の顔を思わせるような紋様が浮かんでいた。

 

 しっかりと両目、鼻、口らしき模様。それも明らかに若い女性の生気の無い顔(モデル不明)が、木の表面に刻まれているのだ。

 

 ここで有混事が吠えた。

 

「ぬわぁ〜〜っはっはっはっ! 見るがよかぁ! これこそ吾輩が密かに研究して育て上げたプラント・モンスター{植物系怪物}やけんねぇーーっ! これこそ杉の木ば素材にして、吾輩が趣味で創り上げたホムンクルス・トレント{魔造樹人}ったぁーーい! こいつが本気で暴れたら城のひとつやふたつ、簡単にぶっ壊すことができるとばぁーーい☠」

 

 バチーーンとハリセンで、蟻連がうしろから有混事をしばき叩いた。

 

「ちばけるなぁーーっ! ここはわしの城じゃけえのぉーーっ! それに貴様は人ん屋敷に、勝手にこげーな怪物を連れ込んでおったんけーー♨」

 

 蟻連のおらび声など、有混事は完ぺきに無視した。

 

「ぬわっはっはっはっはっはっ!」

 

『……なんも知らん無垢な草花ば、こげな怪物にしてしまうなんてぇ!』(作者注 大木はふつう『草花』とは言いません⚠)

 

 もはや狂気の哄笑を続ける有混事の悪あがきを間近で見て、祭子の緑の髪が、天に向けて逆立った(ここは一応室内だけど⛔)。

 

『やっぱ、大っ嫌ぁーーっい!』

 

 それでも有混事の狂気に、みじんの影響もなかった。

 

「大っ嫌いやったら、どげんするっちゅうとやぁ! ちんまい薔薇ごときが、大木に勝てるわけなかろうもぉ! さあっ! 我が愛するトレントよぉ! ここに生えとう雑草ば、とっとと踏み潰してしまいやぁーーっ!」

 

 どうやら有混事の命令に従順なように仕掛けられているトレントが、まるでタコの這いずりのような前進を、ズズズズズズッッッと開始した。

 

 確かにこれだけの大きさと重量があれば、道行く先にどのような障害が待ち構えていようと、平気で蹴散らかすだけだろう。

 

「や、やめえーーっ! ここはわしの屋敷なんじゃけーーっ☠☠」

 

 蟻連の絶叫だけが、今やホムンクルス・トレントの破壊音と並ぶ、この場で響き渡る轟音となっていた。


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