『剣遊記]』 第六章 新人類の誕生。 (4) 「こげんなったら、もうしょうがんなか!」
見事に言葉をやり返されて、頭に血が逆流したらしい。有混事が律子に、両手の手の平を向ける構えを取った。
「火炎弾で焼き払ってくれるったぁーーい!」
「きゃあーーっ!」
薔薇の花が悲鳴を上げた。
やはり植物である以上、最大の弱点と言えば、これしかない。
それこそ火を点けられたら、一巻の終わり。律子は体中(?)の葉っぱと根っこを総動員。なんとかこの場から逃れようと、もがきにもがきまくった。しかし、秀正と祭子を葉と茎の下に隠しているので、思うように這いずることができなかった。
なにしろ薔薇と言えば先ほども記したとおり、全体に生えるトゲが付きもの。ここで無闇に動いたら、せっかく保護をしているふたりを、反対に傷付ける結果にもなりかねない。
この間にも有混事の呪文が進行中。あとは両手の手の平から、炎の塊が噴き出すだけ。ところがここで、蟻連がなんと止めに入ったりした。
「お、おい! こん女子は行政長官の贈るぼっけー大事な貢ぎモンじゃけー! それにここはわしの家じゃあ! 貴様はわしん家{ち}に火ぃ点ける気けぇーーっ!」
先ほどとはあっさり、立場が逆転。事の重大さに、ようやく気がついたらしい。慌てて司教を、うしろからガシッと羽交い絞めにした。だが、もはや猛り狂っている有混事の耳には届かなかった。
「しぇ、しぇからしか! おめえは黙っちょれぇ!」
ついでにこの時点で、有混事の火炎弾発射のための呪文も中断。せっかく発火しかけた彼の手が、急激に冷めていった。
「あんやてぇ! 貴様、こんわしを誰じゃと思うとんじゃあ!」
当然ながら、伯爵も物の見事に激怒した。
「貴様はわしの出世の邪魔する気じゃろー!」
こうなれば、売り言葉に買い言葉。
「しぇからしかぁ! あんたの出世は全部、吾輩が骨を折ってお膳立てした賜{たま}モンやろうがぁ! それがなきゃ、あんたはただの木偶の坊ったぁーーい!」
「あんやてぇーーっ! それが貴様の本心けぇーーっ!」
絵に描いたような内輪ゲンカが始まった。
ところが次の、これまた瞬間だった。
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