『剣遊記]』 第六章 新人類の誕生。 (22) 「なんか悪趣味な感じがするっちゃけどねぇ〜〜☠」
友美だけは可奈と荒生田の所業に、なんだか疑問を感じている様子でいた。しかし無論涼子のほうは、もろに肯定的だった。
『よかよか♡ 悪質ストーカーみたいなんはこれくらいの厳罰ばせにゃ、絶対に自分が悪いっち思わんもんやけ♡ 今まで律子ちゃんば苦しめた代償としては、まだまだこげなもんじゃなかっち、あたしは思うっちゃけど☠』
その律子も今は夫の秀正と並んで、帰りの道に着こうとしていた。
彼女の髪は、とうとう純度の高い緑色のまま。さらに、秀正が背中に背負っている娘の祭子もまた。
(律子ちゃん……あれでほんなこつ満足しとんやろっかねぇ……?)
ここで母娘の将来が、非常に気に懸かる孝治であった。だが今現在は、本人がそれでけっこうと言っている。だからこれ以上は他人が口をはさんでも、もはや仕方がないだろう。
実際、律子自身があれほど憎んでいた司教の最期(死んでないけど)を見届け、恨みは綺麗さっぱり晴れたとも言っていた。
「まっ、律子ちゃんがあげん言うとんやけ、もうええっちゃね☀」
孝治としても、依頼をされたひとつの仕事が、これにて終了したまでの話。だけども律子の件以外でも、もうひとつ気になる一件が残っていた。
「……で、美香ちゃんはけっきょく、こんまんまで九州まで帰る気け?」
「……そうずら☠ あたしがてきねぇごと言ってもだいじょう言って、ひとっきりも聞いてくれねんだにぃ☠」
可奈も頭が痛そう顔をして、相変わらずニホンカモシカの姿で帰路に着く、幼なじみの美香に瞳を向けていた。
どうやら美香は、やはり人でいるよりもカモシカでいるほうが、本当に自分の性に合っているらしいのだ。この気持ち――孝治にはまるで理解が不可能なのだが。
なお、孝治と可奈は、このとき気づいていなかった。それは美香がカモシカの瞳で、静かに秀正が背負っている祭子を見つめている様子に。
獣の姿では、自分が今なにを言いたいか。それを他人に伝える手段はなかった。だが、まるでなにかを共感しているかのように、美香はジッと祭子の寝顔を見つめていた。
そんな彼女たち(孝治含む)に向け、荒生田が高らかに吼え立てた。
「ゆおーーっしぃ! これにて一丁上がりったぁーーい♡ これで帰るとすっけぇーーっ☀」 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |