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『剣遊記]』

第六章 新人類の誕生。

     (17)

 有混事が司教の地位を悪用して蓄えていた隠し財産は彼の自宅ではなく、教会支部に設けられている地下金庫室で保管をされていた。

 

 なぜにわざわざ、自宅ではなく勤務地の教会に隠していたのか。有混事が白状するには、自宅だと行政機関の監察がけっこう面倒で、その点教会であれば各種の特権に守られて、監察官の目をごまかしやすい――とのこと。

 

 もっともこれらの裏金工作をすぐに見抜いた者は、やはり可奈の眼力であった。

 

「さっすがムショ帰り♡ 悪党の考えることが、ようわかるっちゃねぇ〜〜♡」

 

 これもさすがに、失礼千万を自覚。元山賊の女首領には聞こえないよう、孝治はそっとつぶやいた。

 

 それから孝治は友美と涼子を連れ、地下金庫室に入ってみた。そこではすでに、荒生田と可奈が高価そうな宝石類に夢中の有様となっていた。さらに秀正と律子は、宝の地図とおぼしき書類を調べていた。なにしろこちらの夫婦は事件の依頼人であり報酬の支払い人なのだから、とにかく加害者から元を取り返さないといけないので。

 

「ほう、これはトパーズっちゃねぇ♡ もっとええモンなかっちゃろっか?」

 

「思ったほど高級なモンがねえずらねぇ☠ あいつって、あんまりモノさ見る目がねえみたいだにぃ☁」

 

「ヒデ……こん東北地方の地図ばどげんやろっか?」

 

「駄目っちゃ☠ 最近造ったみたいな贋作の宝ん地図ばい☠」

 

 また美香(現在人間中)は、宝物自体にてんで興味はないらしい。部屋の入り口で退屈そうに、大きなアクビを連発中。かく言う孝治と友美と涼子も、実はこれ以上の収奪には、あまり関心を持てていなかった。とにかくやるだけの仕事が済んだので、なんだか体が疲れきった思いでいるのだ。

 

 ところが、そんな半分だらけた空気の中でのこと。

 

「おっ! 先輩、これば見てください♡」

 

「ん? なんかあったとや?」

 

 書類の山の中から、なにかを見つけ出したらしい。秀正が目ぼしい物品を探り尽くしてひと息吐いている荒生田に、慌ただしい感じで声をかけていた。

 

「なんか見つけたんけ? 宝ん地図でもやねぇ♠」

 

「いえ、宝じゃなかけんですけど♡」

 

 秀正はさもはしゃぐように言って、面倒臭そうに立ち上がる荒生田に、右手に持っている書類の束を、重要そうにして手渡した。

 

「おっ? こりゃあ……☞」

 

 書類に書かれている内容は、お宝以外には興味を抱かないはずの荒生田でさえも、どうやらうなずけるシロモノであったらしい。孝治と友美と涼子もつられて、書類の内容をうしろから覗いてみた。ここで親切心でもないだろうが、荒生田が声に出して読んでくれた。

 

「オレたちがしばき飛ばした蟻連伯爵と有混事が共謀で犯した政界工作やら不正蓄財が、みっちり書き込まれとうばい☆ これによるとどうやら、津山市ば統括しちょう行政長官も絡んじょるっちことやな☆ それやったらこいつも、オレたちのお仕置きのターゲットっちゅうことやね☆」

 

「そうですっちゃ☀ 重要な証拠物件てことですばい♡」

 

 書類を手に交わし合う荒生田と秀正の目線が、そのうしろで怯えきっている有混事へと向けられた。これにて有混事は青くなっている顔を、さらに強烈に青ざめさせた。

 

「そ、そげなぁ! そりゃこれが罪ってことくらい、吾輩だってわかってますばい! 吾輩はただ、その誰もがやってることをやっただけでして……せめて命だけはお助けを……☂」

 

 この際魔力封じだけで、縄で縛られて拘束までされていない姿格好が幸い。両手を床につけて土下座をし、ペコペコと哀願している有様は、まさに見る者の涙を誘うド迫力があった。するとその願いが通じたのだろうか。荒生田が有混事に向かってひと言。ただし、サングラスの奥の三白眼には、いつもどおり残忍の光を宿らせていたのだが。

 

「安心しや♡ 命まで取ったりはせんけね♡ そん代わり、てめえの政治生命ばお終いにしちゃるけ☠」

 

 可奈がそんな荒生田をさらにうしろから眺めつつ、孝治にひそひそとささやいた。

 

「あいつ……荒生田って野郎……今回初めて組んでないよ……あれでけっこう、正義感のあるあいつなんずらか? そんだとしたら、あいつは人さ見かけに寄らん……の典型みてえな感じさするだにぃ……けどぉ……?」

 

 なんだか評価に迷っている感じの可奈に、孝治は言ってやった。かなりに否定的な言い回し方で。

 

「正義感とはちゃうっち思うっちゃよ☠ ただ単に、弱くなった立場ん人ん傷に、塩ばどんどんすり込むんが大好きなだけなんちゃけ☠」


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