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『剣遊記]』

第六章 新人類の誕生。

     (15)

 けっきょく律子の背中の検査は、友美と可奈が担当するようになった。

 

 すぐに友美が結果報告。

 

「なんもなかっちゃよ♡ ほんなこつ綺麗で真っ白な背中やったけね♡」

 

「ほらぁ♡ 吾輩が言うたとおりやろうがぁ♡ 呪いなんぞ、とっくに終了しておるわい♡」

 

 友美の報告を聞いた有混事が派手に騒ぐが、もちろんこれにて、秀正が『はい、そうっちゃね☺』と、済ませるわけがない。

 

「それやったらどげんして、律子の髪が緑んまんまなんね! てめえはこれがどういう理由だか、説明する義務があろうがぁ!」

 

「ふぇ〜〜っ! それは吾輩にもわっかりましぇ〜〜ん☂」

 

 もはや処置なしである。

 

 そんな風で必死の形相である夫とは対照的。妻の律子はほっと安堵のひと息で、孝治と友美を相手にささやきかけてきた。ついでに涼子も、聞き耳立て。

 

「わたし……なんか、これで良かったっち思うとばい☺ だって、これで今までどおり、綺麗な薔薇に変身できそうやし……♡」

 

 そのようにポツリとささやく律子の右手から(こそっとではあるが)小さい植物のつるが伸び、さらにこれまた小さな赤い薔薇の花を咲かせていた。まさに呪いこそ消失したものの(これも本当は疑わしいが☢)、薔薇変身体質は残ったわけなのだ。

 

「こんこつってほんなこつ……秀正には言わんほうがええっちゃね☠」

 

「それは……そげんする☀」

 

 律子は一応、孝治の忠告にはすなおに従う感じでいた。確かに今、そんな本心を言ってしまえば、問題の秀正が卒倒して、再び倒れるかもしれないからだ。

 

 その問題である夫の秀正は、今も憤慨丸出しのまま。有混事をポカポカと殴り続けていた。

 

 悪乗りで荒生田も手を出しているけど。

 

 それは置いて、可奈が含み笑顔の様子で、秀正を(かたちだけ)引き止めた。

 

「これってぇ……あたしの推測なんだにぃ……聞いてくれるずら?」

 

「推測ぅ……なんね?」

 

 秀正も殴る手を止め(荒生田は止めなかった)、一応は可奈に耳を傾けた。可奈は含み笑顔を隠さないまま、秀正相手に説明を始めた。

 

「これはずらぁ、ライカンスロープの伝承に関する話なんだにぃ、さけぇここにおる美香がニホンカモシカに変身すんのは、あんたも知ってるだにぃ✐」

 

「ああ、そうっちゃよ♨」

 

 このとき秀正の目は、『あんた、なん言いよん?』の色でいっぱい。しかし可奈の肝っ玉とド根性は、これしきの目線ぐらいでは動じない自信を、充分以上に備えていた。

 

「さけぇ、ちっとべぇくれえ、こん話さ知っとうずら? ライカンスロープの起源さ、実は古代の魔術師が呪術によるもんだってこんずら✍ で、ずでからの話になるんだけど、世の中におめってえほどおるライカンスロープって、太古の魔術師が魔術で動物にメタモルフォーゼできるようにした人たちの子孫だわえ✎ さけぇそんまんま、呪術が代々遺伝しちまったってわけ✋ つまりわれのカミさんは、呪術さ受けてそれに適応してしもうて、新しい亜人間{デミ・ヒューマン}の一種として、生まれ変わったんずらぁ☀ で、こうなると、どんなでえじんな魔術師が元に戻そうとしたって、みんな無駄な努力ずらよ☠」

 

「つまりぃ……ワーローズ{薔薇人間}の誕生っちゅうことっちゃね♠」

 

 可奈の説明をうしろで聞いて、孝治も納得気分でふんふんとうなずいた。それとは真逆で、肝心の秀正は絶句中。

 

「…………☠」

 

 おまけに硬直状態にまで陥っていた。だけど、ここで愛娘――祭子を抱いた愛妻――律子が、悩ましそうな瞳で亭主を見つめていた。

 

「ねえ、ヒデぇ……こげな体になったわたしと祭子なんやけど……えずいっち思うたり嫌いになったりした?」

 

 秀正は激しく頭を横に振り、大絶叫をやらかした。

 

「……そ、そげなことはずえったいになかぁーーっ! 律子は律子ったい! それに祭子はおれの娘やけねぇ! 誰が嫌いになんかなるもんけぇーーっ!」

 

 ここでせっかく秀正が感極まり、妻と娘をまとめて抱き締める、感動的な場面であった。ところが関係のない荒生田がしゃしゃり出て、けっきょくすべてをお笑いへと変えてくれた。

 

「エラかっ! よう言うたばい☀ そんでこそオレの後輩ったい☆ まあ、おまえが駄目やったら、こんオレがあとば引き受けても良かっちゃけどね♡」

 

「先輩は引っ込んどきんしゃーーい!」

 

 孝治は再度、大型ハンマー(出所不明)を炸裂させた。


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