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『剣遊記]』

第六章 新人類の誕生。

     (14)

 その件もともかくとして、すっかり媚び売りまくりの顔となっている有混事が、秀正の言いなりのまま、律子に向けて両手を差し出した。

 

 十本の指を、すべてそろえた格好にして。

 

「……で、では……呪いの解除ば行ないますけ……☂」

 

「……まあ、しょうがなかやねぇ……☁」

 

 律子の顔付きは、半分あきらめの気持ちがありありの感じでいた。恐らく薔薇になれてうれしかった本音など、夫の秀正は絶対に理解をしてくれないであろうから。

 

 それからようやく、司教有混事の呪文詠唱が始まった。これでどうやら、呪いとやらを解除しているつもりのようである。しかし律子の体自体には、なんの変化も見られなかった。髪も緑から変わらないし。

 

「?」

 

 これでは端で見ている孝治たちも、なんだか疑問を感じるばかり。

 

「あれって、呪いの解除になっとんやろっか?」

 

 孝治のつぶやきのうちに、司教の呪文がポツンと終了した。

 

「あのぉ……解除魔術が終わりました……ばい……☃」

 

「しばくぞ、こん野郎ぉ!」

 

 恐る恐るの上目づかいでほざく有混事に、怒り心頭丸出しの秀正が殴りかかった。

 

「律子も祭子も髪が緑んままやなかねぇ♨ これでどこが解除っちゅうっちゃねぇ♨」

 

「ひえ〜〜ん☂ ほんなこつ解除ばしたとですよぉ〜〜☂」

 

 とうとう有混事が泣きだした。おまけにこいつの顔には、『もうこれ以上、なんもできましぇ〜〜ん☂☃』の色がありあり。そこへ、別に助け舟のつもりでもなかろうが、可奈がふたり(秀正と有混事)の間に割って入った。

 

「まあまあ、ふたりとも、いぼつけねえで落ち着くずら☻ こん男ん言うとおり、ほんとに呪いが解けたとしたら、おめさの女房の体のどっかさにあるはずの呪いの刻印が消えとうはずずらよ♐ さけぇ、それさ確かめてみればええだにぃ☀」

 

「ははぁ〜〜ん☀」

 

 これも端で見ていた孝治は思った。口には決して出さないようにして。

 

(可奈さんがこげん前向きんこつ言うなんち……やっぱおんなじ経験があるからっちゃろうねぇ♐ 今回も披露してくれたっちゃけど、美奈子さんからリスにされた魔術ばかけられたトラウマがあるっちゃけ♥)

 

 この件は黙っておいたが、『刻印』と聞いて、孝治も頭にピンときた。

 

「ああ、薔薇の入れ墨んことっちゃね☆」

 

 それならばついこの前、律子本人から直接見せてもらったばかり。彼女の背中に浮かんでいる、見事な赤い薔薇の花を。

 

 ついでに次のような推測も考える。

 

(たぶん……なんやけど、可奈さんにも体のどっかにリスの入れ墨みたいなんができて、そのあと解除は一応してもろうてそん入れ墨は消えたっちゃけど、リスになれる能力……っちゅうか、後遺症は残ったっちゅうことやろっか? それば踏まえて、可奈さんは『もしかして?』っち思うたんやろうねぇ★)

 

 それから孝治の考えなど知るよしもない可奈が、秀正に言っていた。

 

「じゃあ律子さんの体を、ここで見せてほしいずら♐」

 

「簡単に言うんやなか♨ 仮にもおれの女房ばい♨」

 

 積極的に勧めてくる可奈に、秀正はやはり乗り気になれない感じでいた。

 

 まあ確かに、自分の妻のヌードスタイルを、いったい誰が他人に見せたいであろうか。

 

「うん、おれにも秀正ん気持ちは、ようわかるっちゃ☆」

 

 孝治もふんふんとうなずいた。ところがここで出しゃばった男が、例によって荒生田先輩。

 

「ゆおーーっし! 解除ば確かめるには、律子ん体ば見ればええっちゅうことやねぇ♡ ゆおーーっし! 早速検査ば開始ったぁーーい♡」

 

 このサングラス😎野郎は有混事一味をしばき倒し、一応自分の役目を終えていた。だけどそのあと、破壊されている宴会の場にかろうじて残っていた酒を飲み放題。そんなところで、今の会話を地獄耳で聞きつけたらしいのだ。

 

「では早速、律子さんに脱いでもらうったいね♡ もちろんそれはオレの役割っちゃけ♡」

 

「「違うっちゃよ!」」

 

 孝治と秀正は共同して、荒生田を特大ハンマーで叩きのめした。

 

 こんなにも息が合うふたりは、やっぱり大の親友同士である。


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