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『剣遊記]』

第六章 新人類の誕生。

     (10)

「すっげえ音ばしてなんかが壊れたんは、やっぱ、こん部屋っちゃね☟ なんかすっげえ埃だらけになっちょうけ☠」

 

「そうみたいっちゃねぇ☢」

 

『うん……でもなして、こげん家までバラバラに壊れちょるんやろっかねぇ?』

 

 祭子が消えた。すぐあとのこと。孝治を先頭にして、友美と涼子の三人は、ほとんど壊れかけている扉をバスンと蹴破って(もちろん孝治の右足で)、以前は宴会場になっていたはずの部屋に入った。

 

「うわっち!」

 

 そこで当然の話ながら、孝治たちの瞳に、まず飛び込んだモノ。それは大きな部屋を巻き添えにして崩しまくり、それでも場違いとも言える場所で倒れている杉の大木。それに、その杉の樹皮を無邪気に食べている、ニホンカモシカの姿であった。

 

 もちろん孝治たちは、カモシカが美香だと知っていた。いや、知り過ぎと言って良いかも。

 

 しかし、ホムンクルス・トレントが動く現場を見ていない孝治たちは、今のこの光景がいったいなにを意味するのか。さっぱり見当がつかなかった。

 

「どげんなっとうとや? これって……?」

 

 頭の上に何個もの『?』を、孝治はグルグルと旋回させて浮かべた。それでも美香自身は、まったくお構いなしのご様子。相変わらず好物らしい杉の樹皮に、クチャクチャと舌鼓を打ってばかりでいた。

 

 これはそれほどまでに、杉の樹皮が美味なためなのであろうか。

 

『なんがあったんかわからんちゃけど、美香ちゃんが人間に戻ってから訊くしかなかっちゃね♤ ほら、あそこに有混事と、もうひとりが倒れとうっちゃけ✐ もしかしてこれって、美香ちゃんが全部やったんとちゃうんやろっか?』

 

 涼子が右手で指差した先には、今回の悪役である有混事司教と蟻連伯爵のふたりがいまだ仲良く、大の字で寝転がっているままでいた。

 

 有混事の顔は一度お目にかかっているので、すぐにそうだと判明した。しかし蟻連のほうとは一応初対面なので、孝治たちはこれが誰なのか、皆目わからなかった。

 

「ふぅ〜ん、美香ちゃん、また例のカモシカ拳法なんか、使ったっちゃろうねぇ……で、有混事の隣りで寝とんのは、いったい誰なんやろ?」

 

 孝治の至極当然な疑問には、この場の誰も答えられなかった。

 

「わからんちゃねぇ〜〜? たぶん、有混事の仲間っちゃろうけどぉ……☛」

 

『まあ、名前なんか知らんちゃけど、たぶんそんとおりっち、あたしは思うっちゃよ✌』

 

「まあ、涼子ん言うとおりっちゃろうねぇ✎」

 

 友美と涼子の会話に、孝治はうむうむとうなずいた。

 

「じゃあ、こん杉の木が倒れとるんも、美香ちゃんの手柄なんやろっかねぇ?」

 

 孝治の再度の問いに、涼子はわずかに首を左に傾げる素振りで返してきた。

 

『さあ……そこまではあたしにもわからんちゃよ☠ それよかあそこで咲いてる薔薇ん花……律子ちゃんとちゃう?』

 

「うわっち! ほんなこつ☀」

 

 美香の件は、これにてとりあえず棚上げ。孝治、友美、涼子の三人は、倒れている杉の木の向こう側。今も花を咲かせている薔薇のそばまで駆けつけた。


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