『剣遊記 番外編W』 第二章 只今、島流し中。 (9) 「も、もうよか……☁」
取り巻きたちの動揺が伝染したらしい。雨留守が踵を返して、清美と徳力に背を向けた。
ふだんとまったく勝手が違う状況となり、これにどう反撃したら良いものか。まるでわからなくなったようである。
これも環境と家柄の良過ぎる一流の家庭で、自分自身になんの疑問もなくきょうまで育ってきた要因による、ある種の受け身の弱さと不慣れであろうか。
「行くばい……☠」
けっきょく全員、そろって無言。清美と徳力の前から、すごすごと退散していった。
「けっ! 根性のカケラんなか、腹かく連中ばいねぇ♨ もっとも、あぎゃん言った連中っち、匿名やったらそれこそやりたい放題のくせばして、いざ本名ば名乗れっち言うてやったら、急に意気地ばのうなっちまうもんばい☠ なんべんかて言うばってん、自分に自信がねえってことばってんねぇ☢」
あとで徳力に自慢したのだが、生のケンカでは、しょっちゅう手が先に出る場合の多い清美であった。しかし口論で勝った回数も、これはこれで、けっこう連戦連勝の強者{つわもの}であるらしいのだ。
なによりも実力行使ではない、一種の平和的解決手段(?)で終わるのならば、それはそれに越したことはない――これも清美の合理的な考えのひとつであった。
「まっ、とにかくこれで、今回も退学にならんで済んだっちゅうことやね♥ あたいかてそぎゃん、何回も学校ば変えとうなかけんねぇ☻」
それなりに安堵の思いに浸りつつ、清美はふっとため息を吐いた。その背中から、ほとんど話の展開に入り込む余地のなかった徳力が、なんだかうれしそうな顔で話しかけてきた。
「清美さんって……たいぎゃ強か人なんですねぇ〜〜♡ ボク、清美さんば見直しましたばぁい☺」
「あたいんこつなんち、うっちょけって♐」
一応ピンチから助けてくれた話の成り行きなので、徳力は清美に、なぜか本格的な好感を抱いている様子でいた。
「ボク……清美さんに心から感服しましたばってん、これからもどうか、お付き合いばさせてください☆」
「あ〜ん? ぬしゃ、それば真面目に言いよっとや?」
これにはさすがの清美も、瞳が点となる思い。だけど、徳力の申し出に対する返答は、その真剣そうな顔を見るだけで充分だった。
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